※男体化設定
「じろーちゃん、寝癖が直んないよぉ〜」
「ん、櫛とヘアゴム出して。今日はまた一段とすごいうねりだね…、編み込みでいい?」
「ヴァッ!?」
「えっ、何、怖いんだけど」
「……じろーちゃん…わたしお弁当忘れたみたい……しかも今日に限って財布まで忘れた……」
「なんつー顔してんのさ。ほら、購買行くよ。ウチも今日はパン食べたいなって気分だったし」
「じろーちゃん、さっきの授業なんだけど、」
「ああ、最後の?アンタ、この前も似たような問題で行き詰まってたもんね。ペン貸して。この公式はまずーーー」
やったぁ、解けた!ありがとう、じろーちゃん!とバンザイすれば、ハイハイよくできましたと棒読みで頭を撫でてくれた。もっと心を込めて褒めてよぉ〜と教えてもらった身分で文句を言ったら、ため息をつきながらも掌に飴を乗せてくれた。
「これ、わたしが好きなやつ!」
「知ってる」
「〜〜〜ッ、じろーちゃん大好きッ!」
「…知ってる」
そっけない返答に反して、少しだけ口角を上げてわたしを優しく見守る視線に、だんだん顔に熱が集まってくる。じろーちゃんは、本当に本当に、かっこいい。スラっとしていて一見華奢なのに、何もないところで頻繁に転びそうになるわたしを引き寄せてくれる腕は筋肉がついていて実は結構ガッシリしているし、音楽の話題になるといつもとは打って変わって熱のこもった口調で目をキラキラ輝かせながらちょっと早口になる、そんな意外と子供っぽい一面も堪らなく好き。じろーちゃんのことを考えるだけで、顔だけじゃなく身体にもどんどん熱が広がっていく。
ポーカーフェイスのじろーちゃんと茹でダコのように真っ赤になっているわたし。不本意なことに、1-Aでは見慣れた光景となってしまっているし、なんでも顔に出てしまうわたしが大抵からかわれる。
予鈴が鳴ってみんなが席に戻っていく中、赤く染まったわたしの顔を見た上鳴くんや瀬呂くんのからの野次と、もはや呪詛の類と化した峰田くんの叫び声を受けながら、わたしもじろーちゃんのすぐ後ろにある自分の席に座った。
程なくして教室に入ってきた先生が黒板にチョークで今日の授業内容を書き始めたのを確認して、前に座っているじろーちゃんの耳たぶーーーもといイヤホン・ジャックをそっとつつくと、ゆらゆらと伸びてきた。それをゆっくり丸めた両手で包みこんで、自分の口元に運び、誰にも聞こえない声で囁いた。
じろーちゃんのこと、世界でいちばん大好きだよ
途端にシュルシュルっと手から逃げて持ち主の耳たぶに戻っていったイヤホン・ジャックに寂しさをちょっと感じつつも、じわじわと赤くなっていくじろーちゃんの耳たぶを見て、満足して微笑んだ。じろーちゃんは結構恥ずかしがり屋だし、クールなタイプだけれど決して冷たい人じゃない。むしろ、とっても優しい人なのだ。じろーちゃんへの好きという気持ちが胸の中に抑えきれなくて、その時その時ですぐ口に出して言っちゃうわたしに呆れもせず、短い言葉で、例え一言だったとしても必ず返事をしてくれる。じろーちゃんの口から「好き」とハッキリ言ってもらえたのは、じろーちゃんから告白された時を除いたら月に1回あるかないかだけれど、その分、日々の行動とあの優しさに溢れた静かな眼差しでわたしの言葉に応えてくれるのだ。
授業が終わって先生が教室を出てからすぐに、じろーちゃんがくるっと後ろを振り返ってこちらを見た。わたしはニコニコしながら、じろーちゃんが口を開くのを待っていた。いつものように飽きもせず律儀に、知ってる、って答えてく「ウチも、」
好き。
最後の2文字は音にならなかったけど、はっきりと唇の動きでわたしに伝えてくれた。
やっと鎮まったと思ったのに、また一瞬で全身が火照り出す。
…いつだってじろーちゃんは一枚どころか何枚もわたしより上手だ。
先ほどと打って変わって不機嫌な顔でじろーちゃんを睨めば、ん?と首を傾げてニヒルに笑った。悔しいくらい様になっている。
やっぱりじろーちゃんはずるい!!そういうところが大好きなんですけどね!!
(2018/09/21)