「じゃじゃーん!今日はドライブに行きまーす!」
「え?」

3月中旬の今日、前々からこの日うちに泊まりにおいで〜なんて言って、名前のスケジュールを2日確保した。
泊まりにおいでと言えばだいたい1泊できるくらいの荷物を持ってくるし、無いものは俺の持ってる分で確保できるって、樹が教えてくれたんだけど。

今日はホワイトデーのお返しを兼ねて、じっくり計画を立てて1泊旅行を決めていた。
問題は車で、俺は運転ができないからいつもドライブは名前に頼るしかなくて。
でも車で来てなんて言いにくいし、絶対に勘づかれたくなかったから、行きだけ今ちょっと時間のある樹に頼んで送って貰うことにした。

その話をしている最中に聞き耳を立てて居たらしい大我も一緒行きたいと言い出して、結局みんな大声で喋るもんだから俺も俺もと広がって北斗も行くことになり、慎太郎と地は仕事で断念することに。

帰り道、きょもほくじゅりのドライブになってファンは喜びそうだね〜なんて笑いながら、時間や待ち合わせ場所の打ち合わせをした。

ずっと会わせたかったし、ちょうどいいんじゃないってやつ。名前がどう思うかは、ちょっと博打だけど。
あと30分もすれば樹が到着する時間だ。


「えっ?おうちじゃないの?」
「そ!今日はね〜surprise!だよん」
「嫌な予感しかしないけど当たりそう」
「なぁんでよ!当たったら天才だよ」
「なにほんとこわい!なに?」
「まぁまぁ〜荷物これで全部?下いくよ〜」
「てか待って!ドライブ?わたし今日車で来てない」
「No problem!」

玄関を出ようとしない名前を引っ張り出して、鍵をかける。ついでに名前が提げていた小さなバックも取り上げて、スマホや鍵なんかも取れないようにした。

ここまでは完璧!



マンションの地下駐車場に降りると、来客のスペースに止まった車がこちらに向かってパッシングをする。見慣れた樹の車じゃなくて、あれ?なんて思いながらそばに寄った。

「おはよ〜」
「樹じゃん!」
「は?」
「え、車違くない?」
「お前俺の車にでっかい男4人と女子乗れると思ってる?」
「たぁしかに!」

ハハ!と笑うと駐車場中に声が響いて、窓越しに樹からパンチを食らった。

「お前ほんとうるさい。あと、後ろで彼女めっちゃ引いてるよ」
「AHA!名前おいで〜樹だよ〜」
「…た、たなかじゅり…」
「はじめまして〜樹って呼んでね」
「俺もいるよ!京本大我です!」
「俺もいます!松村北斗です!」

俺の後ろに隠れるようにして樹の登場に戸惑っていた名前が、突然開いた後部座席の窓から現れた2人を見てさらに小さな声で「うわぁ…」と後退りする。

「お前らちょっと声のトーン考えろよ、聞いてるだけでヒヤヒヤする」
「こちらが名前だよ〜名字名前ちゃん!めーっちゃ可愛いでしょ」
「かぁいい」
「かぁいいねぇ」
「ほんっと可愛いね、ジェシーと並んで絵になる!背高いね?170くらいある?」
「え、ないです…。え、サプライズってこれ?」
「Non!こんなのまだはじめのはじめ〜」

北斗が車から降りて、名前と並ぶ。いつもはそこまで感じなかったけど、こう見るとやっぱり女の子って小さいんだなぁと思う。ちなみに名前は168cmで、本人はちょっとコンプレックスがあったらしい。

今はもう隣に俺がいるし、大きいことに悩むこともなくなったって言うけどね。


続けて大我も降りてきてシートを1度倒そうとしたようだけど、上手くレバーが引けなくて、樹が運転席からそこだよそっち!なんて指示を出した。

「こ、ここですね…」
「ありがとう名前ちゃん!」
「いや〜いかに普段自分たちでやらないかバレますね」
「お前らほんと大概にしろよ」

悪戦苦闘する男たちを見兼ねて手を差し出す名前に、北斗がわぁありがとう〜とめずらしくフレンドリーな笑顔を見せた。そのまま後ろに乗り込んで、俺たちは2列目に座る。
こっちに荷物置けるよ〜と、座席越しに伸ばされた手にボストンバッグを預けて、名前を車に詰め込んだ。

「さ!行きますか〜」
「Let's Go!!!!」
「待って待って待って無理帰る」
「残念!帰れません〜」

助手席に乗り換えた大我がドアロックをかけるとガチャり、と今の名前にとっては無情な音が鳴った。

「いや〜ジェシーの彼女にようやく会えたねぇ」
「全然会わせなかったよな、めずらしく」
「DAHA!名前そういうの好きじゃないもんねー」
「好きじゃないのわかってて連れてきたなら、お前は鬼だよ、ジェシー」

名前は助けるようにこちらを見つめるけれど、真面目なところが出ちゃってて、シートベルトはしっかりと着けている。それがなんだか面白くて、あー今めっちゃ楽しいななんて実感した。

「名前ちゃんに行先いってあんの?」
「なぁんにも!着いてからのお楽しみ!」
「えっドライブだけじゃないの?!」


目的地までたったの2時間。
楽しいドライブのはじまりはじまり。