なんていうか、俺はあまり鈍い方では無いので、名前が1度うちに来て、そして既に帰宅していることに気付くのに時間はかからなかった。

だがその理由はよく分からず、なぜか完成している味噌汁ひとつだけを眺めて、少しの間ぼけっとしてしまう。

「もしもし?」
「おはよう、今帰ってきたの?」
「うん、うち来た?」
「…うーん?」

まぁそんなこと本人に聞かなきゃ分からないので、特に躊躇いもなく電話をかけた。
今は朝6時。そこまで酷い時間でも無いだろう。

「いや、来たでしょ。どうしたの?」
「え〜特に意味ない」
「居てくれたら良かったのに」
「うーん、なんか暇だなと思って帰ってドラマ見てた」
「え、今起きてたの?」
「うん、ラジオで田中さんがおすすめしてたゾンビのやつ見てた」
「それうちでも見れる」
「そうだっけ?」

イマイチすっとぼけたままの会話を続ける名前に少しイラつきながら、でも怒りの気力もなくとりあえず味噌汁を温めながら会話を続けた。

「そうだっけじゃなくて…なに?ちょっと意味わかんない」
「疲れてるんじゃない?寝なよ」
「いや意味わかんなくて寝れないです」
「それこそ意味わかんないよ」

ははっ、と電話の向こうで笑うのがわかった。
味噌汁が沸騰しないように気をつけながら、他に食べるものがないか探す。

「味噌汁これ食べていいんだよね?」
「いいよ、あげる」
「遠慮なく」
「食べたら寝なね」
「これ食べたらそっち行くわ」
「え、寝てないのにバイク乗るつもり?」
「だって名前、真面目に会話する気ないでしょ」
「……いや、あるけど…ないかも…」
「なんで急に来て急に帰ったのか気になるじゃん」
「優吾って顔に似合わずわりと自己中だよね」
「お互いな」

帰ったことをあまり詰められたくないんだなとはいうのは知りつつも、そこを流してはいけないような気もして、少し強めに押す。
この人はいつも冷静を装うような言動をするが、どこかいつも無理がある気がして、最近ずっと気になっていた。

「わかった、降参。わたしがそっちに行くから、お願いだから寝て」
「寝ないけど」
「…わかったから、今から行くから」
「食べて待ってる」
「そうして」








「んで、どうしたの」
「開口一番それはちょっとわらう」
「なんなのも〜!変な感じで疲れ飛んだわ」
「そのメッシュ可愛いね」

相変わらずはぐらかすのが上手い俺の彼女。
来ていたコートを脱いで、ハンガーにかける姿を見ながら、いつもは持っていないエコバッグが目に付いた。

「なに、なんか持ってきたの?」
「…めざといね」
「よく見てるでしょ」

困った笑みを浮かべてこちらを見る名前は、少し元気なく見えるが、何を意図しているのかはよく分からない。
分からないが、それが来て帰った理由なのだろうか。

「…わかった降参します。これはい、どうぞ」
「あ、俺になの?」
「今日、バレンタインだから」
「うん?…あ、なるほど?」
「そういうのほんと嫌い。めっちゃ勘良いのにわざとやってんの?」
「わざとやってないよ、ありがと」
「既製品ですけどね」

不貞腐れたような顔でソファへどかりとなだれこむ。
これはあれだな、俺が手作りチョコレートをアピールしたように見えて、ちょっと嫌になって帰ったやつ。

こういうところ、可愛いよな。

まぁいいか、そこの気持ちは掘り下げなくて。
言いたかったら言うだろうけど、言わないだろう。
ツンデレぶって、全然ツンツン出来ないところが、ほんと可愛い。

「お風呂はいったの?」
「うん、優吾から電話くるちょっと前に」
「そっか、じゃあ一緒に寝よ」
「わたし昼から仕事なの。寝るだけね」
「うーん、それはどうかなぁ」

バチバチに働いたあとってさ、すんごいアドレナリンでるの知ってる?
身をもって、たしかめてどうぞ。