バレンタイン翌日、マネージャーからの電話で目が覚めた。
俺が起きないことを見越してのモーニングコールで、とはいえ時間は夕方だったものの、ギリギリ送迎車に乗り込む。

車中で名前に連絡しようとして、なんと言えばいいか考えてしまい、そのまま現場に着いてしまったものだから、結局次に連絡しようとした時には丸1日が経過していた。

そのタイミングで一昨日?昨日?うち来た?と聞くのもなんだか変な気がして、まぁ次会う時にチョコでも何でも持ってくるだろうと思っていたのだが。


「これ下げちゃっていい?」
「うん、ごちそうさま。さんきゅ」
「いいえ、お粗末さまでした」

その4日後、名前から時間が出来たからおうちでご飯作っておくねと連絡があり、急いで仕事から帰宅し、そのまま食事をし、そのまま夜を過ごし。

「あのさ」
「んー?」
「いや…何言うか忘れたわ」
「なにそれジジイじゃん」
「うるせーぞ」

名前から何かを切り出されることも無く、俺から言うのも催促のようで言えず、結局バレンタインのことに触れないままその日が終わった。

そしてその後もその会話が生まれることはなく、いよいよ明後日がホワイトデーというところまで迫っている。









「はぁ、どうすりゃいいのこれ」
「うっわびっくりしたぁ、声が大きいよ急に」
「わ、ごめんジェシーいると思ってなかった」
「うっそでしょ、さっきお疲れって言って入ったよ俺」
「ぜんっぜん聞こえてなかった」
「AHA!まぁじで?」
『もしかして俺にも気付いてらっしゃらない?』
「北斗にはいつも気付いてない」

撮影の合間。
スマホに一件の通知が届いて、宅配業者から配送完了の知らせだった。それは名前のホワイトデーに買っていたアクセサリーで、店頭在庫がなかったから取り寄せていたものだ。

何かしらバレンタインのアクションを起こしてくると思っていたものだから、あのすぐ後に、見切り発車で購入したものである。

「なぁにそれ、樹片想いでもしてんの?」
「いやマジでその恐れある」
『本当に来てたの?そもそも』
「いやわっかんないのよ、でもあの日うちに来てたのは絶対なんだって」
『会いたくて妄想しちゃったんじゃないの』
「DAHA!香りまで?やばいやつじゃん」
「俺そんなに飢えてる?」
『名前ちゃんが来てたのかわかんない以上そうなるよね』
「本人に聞けばいいじゃん!俺ならすぐ聞いちゃうな」
『タイミング逃したよね』
「それ。タイミング逃した」


バレンタインにもらってようがなかろうが、このアクセサリー自体は名前のために買ったと思う。だから別にいいんだけれど、なんかちょっと肩透かしを食らったような気がして、モヤモヤが残る。


『樹は結局さ、程よい距離感が良いとか言いつつベタ惚れだしもっとべったりしたいんじゃないの』