太陽の騎士・ガウェイン。円卓の騎士の一人として名を馳せた彼にとってこれが2度目の現界となった。システムから仮初の肉体を与えられる。続いて人格、精神、知識、記録が構築されていく。久々の肉体的感覚。伏せていた目をゆっくりと開け、何度か瞬きを繰り返した。目の前には年端もいかない少女。──彼女が、私のマスターか。ガウェインは召喚陣の中心で頭を垂れる。

「円卓の騎士、ガウェイン。今後ともよろしくお願いいたします」
「わたしは波琉。こちらこそ召喚に応じてくれてありがとう」

ガウェインはにこやかに笑んでいる波琉の能力を読み取った。魔術師というよりはただの一般人に近く、また際立ったカリスマ性を持ち合わせているわけでもなかった。騎士として絶対の剣として、生前に仕えた我が王や記録の中に微かに残るいつかの聖杯戦争で仕えた少年王とは対極の位置にいる、あまりに平々凡々な人間。それが波琉に対する第一印象だった。しかし、召喚された以上、マスターに付き従うのがサーヴァントとたるもの。すぐに霊基を限界まで引き上げられたガウェインは数多くのクエストに出陣した。そして行動を共にする中で、少しずつ波琉の人となりに触れていった。
波琉は一言で表すと『変わり者のマスター』だった。一般人らしい感性により、自らが召喚したサーヴァント達を使い魔でも兵器でもなく、一個人として見ていた。共に笑い、彼らが悩みを抱えているならば手を差し伸べ、解決のために助力する。『主従』というよりは『仲間』。対等であることを基本スタンスにしているが、彼らを敬うことを決して忘れはしない。魔術師としての技量はとてつもなく未熟だが、それ以上に真っ直ぐで強い心を持ち、人類最後のマスターとして未来を取り戻す戦いに臨む波琉の姿勢にガウェインは忠誠を誓った。必ずや波琉の助けになると。かつて自らが剣を捧げた彼らの時のように。




穏やかな潮騒、盛夏を思わせる太陽の輝き。オケアノスの海に浮かぶとある島にやって来た波琉達は、鬱蒼と生い茂る森の中で特異点の残滓と対峙していた。

「ガウェイン!宝具でエネミーを残らず焼き払って!」
「御意」

太陽の恩恵を受けたガウェインは聖剣・ガラティーンをもって、襲いかかってくる敵性生物をまとめて薙ぎ払う。あらゆる不浄を清める焔で焼き尽くされたそれらは跡形も無く霧散していく。敵が遺したものを拾い集めながら、周囲に敵性反応がないことを確認したガウェインはその肩に羽織るインディゴブルーのマントを翻し、爽やかな笑顔で「よい試合でした」と波琉に投げかける。真剣な表情から一変して笑顔を溢した波琉はパンッと手を叩き、サーヴァント達の注目を集めた。

「よーし!素材もだいぶ集まったし、ここでひとつ休憩を取ろっか!」

波琉のこの一言で歓声が上がる。日没までにレイシフト地点の海岸に戻ることを条件に自由行動を言い渡すと、ある者は武器作成に必要な資材を集めてくると森の中に入り、ある者は度重なる戦闘に疲れ、少し休むと木陰で眠りにつき始め、またある者達はまだまだ物足りないと更なる敵性生物を求めて、近くの洞窟へと向かっていった。その場にぽつんと残されたのは波琉とガウェインの2人だけ。

「マスターはいかがなさいますか?」
「わたしは先に海岸に戻ろっかな。休憩もそこでするよ」
「では、私もお供いたします」

なだらかな一本道を抜けて到着地点の海岸へと帰って来るや否や、波琉は「疲れた〜〜!」と両腕を目一杯に広げ、大きく伸びをする。しかし何を思ったのか、急に片脚立ちになり右・左と器用にブーツを脱ぎ始めた。一体何をなさるつもりなのかとじっと見守っていると、波琉は隣にガウェインがいることも気にせず、スカートの中に手を入れた。突拍子もないその行動に意表を突かれたガウェインは、反射的に波琉から目を背けた。衣擦れの音が風に乗って耳元を擽る。マスターとサーヴァントの関係といえどもあまりに無頓着すぎる。コホン、と咳払いをして何処までも広がる緑に目をやりながらガウェインは口を開いた。

「……マスター、お言葉ですがその行動はレディとして如何なものかと」
「えっ、あー、ごめんごめん!もう大丈夫だから!」

ゆっくり振り返ると波琉の脚元を覆っていたタイツは取り払われ、すらりと健康的な脚が太陽の下に晒されていた。ブーツとタイツをその場に捨て置き、波琉ははしゃぎながら海岸線に向かって走る。陸と海の境界に踏み入れた足元を砂浜へ寄せる波が濡らしていく。パシャパシャと音を立てながら、踊るようにくるくるとその場で回った波琉のスカートの裾がふんわりと広がり、髪が靡いた。その美しさたるや。年相応の少女としてのあどけない姿に、ガウェインの口元には無意識の内に小さな笑みが浮かんでいた。


どれだけの時間が経ったのか。日没が近い海は少し寂しさを感じさせる。ガウェインは波が寄せて来ない場所に控え、思い思いに遊ぶ波琉をただ静かに見守っていた。ふと、波と戯れていた波琉が動きを止めて顔を上げる。茜色と東から追いかけてくる群青色の狭間を遠望する何処か憂いを帯びた横顔に、ガウェインの心は寄せては返す波のようにざわつき始めた。息をすることさえも忘れてしまいそうなくらいに見惚れる。あまりの儚さに今にも波に攫われてしまうのではないかと思った。衝動がガウェインを突き動かす。彼女を繋ぎ止めなければ──。

「ガウェイン」

自分の口から言葉が放たれるより早く、波琉がガウェインの方へ振り返った。潮風を纏い、髪がはらりと揺れる。その眩しさにガウェインは思わず目を細めた。夕焼けを背に、こちらを見つめる波琉に何とも言えない想いが込み上げてくる。もし2度目の生があるのならば、その時はただひたすらに主の剣と為るべきと、死に際に誓ったはずだった。それなのに私は──。ガウェインは自分だけに聞こえる声で何かを呟くと、波琉に歩み寄り、手を取った。それは人類最後のマスターにしてはとても小さい。だが、誰よりも多くの優しさと強さと気高き美しさが溢れている。ガウェインは掴んだ手を軽く引っ張ると、倒れてくる波琉の体を胸元で受け止めた。

「ちょっ、ガウェイン!?」

胸元からくぐもった驚きの声が上がる。身をよじらせて離れようとする波琉の体をガウェインは更に強く引き寄せた。2人の心臓の鼓動が重なって聞こえる。

「──しばしの間、お許し願いたい」

生前は理解することが出来なかった身を焦がす程の想いを、今になって理解するとは。ガウェインは苦笑を溢した。円卓の騎士として共に在った彼らはあの時、これ程の想いを胸に抱いて生きていたのだろうか。腕の中に閉じ込めた柔らかな温もりをひしひしと感じながら、ガウェインは静かに目を伏せた。



title by 花洩
20161201 - 診断メーカーより『愛してると伝えたら』

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