カクテル


*5000hitリク 夢主のことは平気な一二三(みち様)

バーカウンターでシェイカーを振る彼女は名前さん。うちの店のバーテンダー 、かつマネージャーだ。
彼女はホストモードの俺が口説こうとしない肉親以外の唯一の人物と言っても過言ではない。
それから・・・ホストモードじゃない俺が平気な人物でもある。

何故だろうか、と何回も考えることがあった。こちらに対して恋愛感情を剥き出して好意を寄せてくるわけじゃないからか?それとも彼女の服装が女性らしくふわふわしたような服装ではないからか?それとも胸が小さいから?髪が短いから?

見た目やファッションに関してはこれは違うと思う。街中で彼女よりも男性的な見た目をしている女性にすれ違うだけで 避けるようにしてしまう。それに名前さんもたまにスカートを穿いたりしているし。これは違うっぽい。
と、街中で視線が合うだけでビクついてしまうので、こちらに対して好意を寄せていないから、という理由も消える。

「どっぽちーん・・・・なんでだと思う?」

同居人であり幼馴染である独歩に問うてみた。
持ち帰り残業であるらしい資料からちらっと目を離しただけでそのまま資料と再びにらめっこしだした。
「知らん・・・が、一二三はその名前さんのことどう思ってるんだ。」
「え?・・・うーん???」

俺がどう思ってるか、か。
名前さんは・・・仕事仲間で・・・しっかりして凛としてて・・・バーテンダーとしても一流で・・・嫌な感じとかしないから、安心するし・・・うーん?

「ヤバイ独歩、まとめるとお母さんかもしんない!!」
「はぁ・・・お前がそれでいいならそれでいいんだが。」


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うーん、こう改めて観察してみるけれど分からないなぁ。
バーカウンターに座ってグラスを拭く名前さんをじっと見ながら考えていた。
「・・・・一二三?そんな穴が空くほど見られると恥ずかしいんだけど。」
「名前さん。俺ー、名前さんにオギャリティを感じてるっぽいんすよ。」
「オギャ・・・・?ってなに?」
「平たく言うとお母さん!っ的な?」
「・・・ふぅん、でも私、一応一二三より年下だよ・・・?」
「名前さんの母性がやばいからっすからね?!あ、名前さんギムレット作ってくんね?」
「はいはい。皆そろそろ出勤してくるから飲んだらジャケット羽織といたほうがいいかもね。」
「ん!そっすねー、」

少し早めに出勤して名前さんの作ったカクテルを飲む。この時間は結構好きだ。
先に出されたクラッカーをつまみながらシェイカーを振るう名前さんを見る。
顔つきだとか、睫毛見てなげぇなぁとか。
手元の動きと指輪は左の親指にはめてんだなとか、薬指はないから結婚してないんだろうな、聞いてないし。とかいろいろ思いを巡らす。そのうちにコースターの上にギムレットが置かれる。

「そうだ一二三。カクテル言葉って知ってる?」
「なんすかそれ。花言葉なら知ってんだけど」
「うん、同じ感じなんだけれど。例えばこのギムレットだったら 遠い人を想う、長いお別れ。とかがあるの。」
「へー・・・ギムレットって哀しめなわけねー?」
「ふふ、そうね。逆にハイライフだと 私はあなたにふさわしい、とかね。」
「じゃあさー!名前さん、俺っちにカクテルくれるとしたらなに?!」
「うーん・・・そうだなぁ。インペリアルフィズかしら。」
「インペリアルフィズ!だとなんなの?!」
「楽しい会話」
「分かるかも!名前さんインペリアルフィズ頂戴!」
「二杯目からは300円(社員価格)だよ」

300円を渡してからギムレットを飲み干し、インペリアルフィズを待つ。そっかそっか、やっぱ名前さんはお母さんでありインペリアルフィズなんだ。だから落ち着くんだなきっと。それが分かってなんだか胸のモヤモヤが消え、胸がすっとした。
すっとしたところで他の同僚が入ってくる足音が聞こえたのでジャケットを羽織おうと袖を通した時だった。
同僚だと思っていた足音は同僚ではなく。同年代の知らない男だった。
「名前、やっとみつけた。」
「・・・・貴方、どうしてここを・・・」

名前さんの瞳が揺らいでいる。その表情から動揺、嫌悪が読み取れる。

「名前さん、誰?」
「・・・・、元彼。」
「俺は別れたつもりないけどね。」
「そうよね。ええ、貴方はそういう人よ・・・とにかく帰って。」
「あぁ、帰るよ。君を連れ帰る。」


嫌がる名前さんの手を掴み連れ出そうとするその男。必死になって抵抗する名前さんがその中で送った俺への視線。その助けを求めるような顔。

不思議なことにその様子を冷静に見ていた。
もやもやした感じじゃない。これはどちらかというと心が、じくじくとした感じ。

「はぁ・・・?今なんて言ったの君」
「一二三・・・・?」


「や、だからさ。俺の名前さん、取んないでっつてんじゃん。」

邪魔、と男の手を名前さんの手からはたき落として彼女を俺の背後に隠した。
あぁ、俺今嫉妬してる。元彼とか・・・元彼とかさぁ・・・。名前さんを独り占めしてたとかズルくね?
「・・・ごめんね名前さん、」

今のこのままの俺だと流血騒動に発展しかねない。さっき着かけたジャケットを羽織って、ホストモードになる。・・・・そうそう、あくまで穏便にね。

「申し訳ありません、もうすぐ店が開店しますのでお引き取りください。」

ちょうど他のキャストたちがぞろぞろと出勤してきてバツが悪くなったのか男は舌打ちをして店から出て行った。
暫くして、気が緩んだらしい名前さんがソファになだれ込むようにして座った。顔面蒼白、といった感じだ。

「・・・もう、ここにはいれないかな。ごめんね、迷惑かけて。」
「名前さん、」
「大丈夫、今日はちゃんと仕事するから。・・・ほら、みんな開店準備進めて。」


フラフラと覚束ない足取りで名前さんもバーカウンターに立ちグラスを拭きはじめた。
そのまま営業は滞りなく進み、終了した。
閉店後の掃除だとかボトル確認だとかをしている間名前さんはオーナーと話してて本気でこのまま店を去るようだった。あの元彼と何があったかは知らないけれどオーナーは事情を知っているらしく、仕方ないなと。

黒いコートを羽織ってマフラーを巻き裏口から出て行く名前さんの後を追った。

「名前さん!!」
「一二三、・・・今日ごめんね。あと、ありがとうねあの時。」

眉を下げて、申し訳なさそうに俺を見る名前さんを抱きしめた。・・・あぁ、小さいな、この人。

「・・・好き、名前さん、好き。初めてだれかを好きになった・・・傍にいさせてよ名前さん」

やっと気付いたんだよ、名前さん。この気持ちのこと。

「ごめん・・・一二三。私、貴方のこと好きよ。・・・だからね、だからこそ貴方とは一緒にいれないの。」

彼女から施されたキスは暖かくて、柔らかくて、冷たかった。

ごめんね、さよなら。と踵を返し去った名前さんの姿が完全に見えなくなるまで、ただただぼおっと見つめていた。
独歩が昔言ってた通り初恋は、実らないものらしい。
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みち様この度はリクエストありがとうございました!
与良基本的にかなりハイペースに話を進めたがり
なのでオラオラってしながら書いてます。へへ。
体調は今年の冬は大丈夫そうです!