原作前

この世界には個性という名の超常の力が存在する。
その事を知ったのは物心がつき、"昔の記憶"を思い出し始めた頃だった。

私は2度目の人生を歩んでいる。
1度目は人の命の軽さが幾ばくか軽い、知る者にとっては念能力に満ち満ちたハンターが中心たる世界。
そこで30を迎える頃に命を落とした記憶がある。そこから気がつけば何がなにやら、まるでやり直しのように今一度生を受けるところから人生をなぞっている。
まあもう一度やり直せるというのであれば、この機会に甘えて前世よりもより早く、より習熟度を高めて念能力を磨き上げてみよう。
そう考えて年端もいかぬ年齢から体づくりと己の体と生命エネルギーを意図的に強化して行った。そうしていると言葉を習得すると共に、周囲の情報からこの世界にも念に似た能力が存在するのだと察する。
しかも、その能力とは念と違って習得にはなんの努力も要らないのだという。力を身につけるのに何の目的も、理由もなく生まれ持つという才能の如き力。元念能力者としては大変複雑な心境であった。大きな力を得るに相応しい努力や研鑽も無しに、ポンと力だけを得る人間たちが作る社会というのは一体どんな世界なのだろう。無条件に念能力者が生まれる世界を思い描いて怖気を感じる瑠奈であった。
しかしそのような世紀末状態はヒーローという職業の台頭で沈静化に成功し、普通に高度な社会を形成していた。そうしてもっと後に知ることになるが、念能力者と違いそもそもの成り立ちが違う個性を扱うものたちは基本的に能力ありきの鍛錬を積む為、近接戦闘型でもない限り圧倒的膂力を持つものはそうそういないのである。

さてそんなことをつゆも知らぬ瑠奈は、さてこの力の飽和した社会で生き抜くべく行動を始めた。幼稚園に通い言葉とコミュニケーション能力を養う傍ら、ひっそりと体づくりをする。念は健全な身体でしか扱えないからである。
一見健やかに育つ幼児のように過ごす中で、実は同年代の幼稚園生もなかなか侮れないことを知る。
ふと視線を横にやれば、キラキラとホログラムの輝くカードを手に男の子たちがワイワイしている。

「かっちゃんみてこれ! オールマイトのヒーローカード!」
「へへ、おれだってもっとるし」

この世界で自分に足りないヒーローや個性に対する知識や情報は、今後自分たちに訪れる開花を待つ彼らにとって興味のど真ん中らしく、中身が成人している瑠奈が感心するほど様々なことをよく知っている。

「ねぇ、かっちゃん?っていうの? ヒーローにくわしい?」
「あたりまえだろ! てかだれだおまえ」
「かっちゃん、おなじももぐみのルナちゃんだよ! ぼくたちオールマイトがすきなんだけど、ほかのヒーローもくわしいよ!!」
「すごいね。よかったらわたしにもいろいろおしえてくれない?」
「へっ! しょーがねぇからおれがおしえころしたる!」
「ころされたくはないなあ」

物を知らぬ子に教えてあげるという行為を大層気に入ったらしい"かっちゃん"と隣で溢れんばかりの憧れと情報を垂れ流してくれる"いずくん"に知識を叩き込まれながら、私はこの世界のことを知っていった。
余談であるが、彼らとの交友は思いのほか長く続くこととなり、初めて世界を教え広げてくれた2人の事は私の中で着実に特別な存在になっていく。

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