3
俺には幼馴染が二人いる。
一人は何もできない無個性のデク。もう一人は逆に俺以上に何でも軽々こなして見せるルナ。
両極端だが幼稚園からの付き合いで小学生に上がった今でも一緒にいることが多い。
俺はこの二人に全く真反対の、だからこそ似ているともいえる感情を抱いている。そしてそれを早い段階で自覚した。そんな様子を含めて、周りの大人は俺のことを早熟の天才だとか何とか形容する。その言葉に相応しいのは俺以外にもそばにいるというのに。あいつは大人に対して隠すのが異様に上手いから。
「ついてくんなっつてんだろ」
「そんなこと言わないでよぅ……」
涙目で、しかし足取りはしっかりと俺についてくる緑谷出久。昔っから後をついてくるこいつの性格と考え方、ひっくるめて不気味で気持ち悪いのでいつからか俺はこいつを拒絶している。
それをこいつがものともせず後にくっついてきているから、ならばどちらが上かをはっきり分からせるためにいつだって俺はこいつの上に立つ。
「……お前は、はよこいや」
「? なんで?」
「あ? ルナお前は常に俺の隣にいて、常に俺が上に跳ぶための足場になンだよ」
「かっちゃん一人でだって勝手に飛べるじゃん」
小柄な身体に見合った小さい口で知ったような口を聞く月城瑠奈。こいつもこいつで歳に不相応なほど訳わからん思考回路してるが、その完成されたような心と体の強さに惹かれた。こいつのその思考回路に俺という存在を組み込ませたくなった。ので、こいつは常に隣に置くために行動している。
この少女は聡く強い。隣にいるこの俺が、まるでただのガキに成り下がってしまったように感じさせるほど、大人びた顔をすることがある。そしてそれを大人には綺麗に隠してしまうのに、俺には綻びを見せる。それさえ分かっていて気を抜いているのだと分からせられてしまっている。
……こんなの、目ェ離せないだろ。
三人でいるときは大抵デクの隣で世話を焼く少女の姿に、俺はいつも小さく奥歯を噛みしめている。なんであいつばかり。何もないやつなのに。
俺は意識しないと隣に立てないのに。無個性のあいつは何もしなくても横に並びに行きやがる。なんで。
いつ頃からだったか、デクとこいつが二人でこそこそ何かをしていることに気付いた。俺を抜きに、俺に黙って一体何をと暴れ散らかしそうな心を抑えてこっそり様子を見に行ったところ、瑠奈が、涙目で踏ん張るデクを蹴倒していじめていた。
えっと思う間もなく、立ち上がりかけたデクをまたしても個性のリボンで引き倒し、地面に這いつくばって涙目でうごうごしているデクを足蹴にして彼女は目を細めて微笑んでいた。
爆豪はしばらくその光景を前に体が硬直していたのだが、ハッとしてそそくさとその場を後にした。何か見てはいけないものを見てしまった気分だ。踏まれるデク、それを踏みつけて可愛く笑う瑠奈の顔が焼き付いて離れない。ドキドキと変に胸が高鳴る。爆豪が瑠奈に性癖を歪まされ始めた最初の一歩であった。
「……? なんでまだ立ってる……?」
ある時デクの異変に気が付いた。
当人はわかっていない様子であったが、明らかに今までよりもしっかりと爆豪の動きについてきていた。デクの体力の限界を飛ばした動きで追いつけないよう、転んだら立ち上がれないくらいに突き放したはずだった。
体力がついただとか筋力が付いたとか、もう少し年齢が上がれば理由に見当を付けられただろうが、まだ小学1年生である。ただただ、彼がほんの少し強くなったのだと理解し、それが誰の仕業なのかを認識した。
「おいルナ、お前だろ」
そうとわかれば爆豪の行動は早かった。いつも彼女が好んでいる場所を片っ端から探し出し、そんな彼から逃れるように木の太い枝の上で猫のように休んでいる彼女を見つけて問いをぶつけた。なんであんな高いとこにいるんだあいつ。
「なにが?」
暖かい木漏れ日と風に眠気を誘われているのか、存外柔らかく帰ってきた声になぜか爆豪のこころがきゅっとつままれたような心地がした。
「デクのやつ! お前が何かしたんだろ」
「うん」
思ったよりすんなりと返事が返ってきてたじろぐ。なんだ、俺に隠れてこそこそしていたわけじゃないらしい。ほわっと安心が胸に根を下ろす。
「ならそれ俺もやらせろ!」
瑠奈に強く言う。デクだけ、無個性のやつに負けてられるかよ。強さも、こいつといる時間も、心の距離だって。こちとら早熟だろうと自覚してンだよ。
意気込んで木の上の瑠奈を見つめていたら、目の前にふわりと音もなく飛び降りてきた瑠奈が立つ。着地音だとか、身のこなしだとか、何をとっても小柄な彼女はこちらを見上げているのに何故か自分より強大な何かを前にした気分になる。ごくりと喉を鳴らして生唾を飲む。
「かっちゃんが? もう十分強いのに?」
「関係ねえ。お前よりさらに上に行くんだ、俺にも教えろ」
しばらく爆豪を見て考え込んだ瑠奈は、しばらくして「いいよ」と言った。
彼女からのOKの返事に、心の中がぱっと喜色に塗れるが何とか外に出さないよう抑える。たったこれっぽっちのことで喜ぶのだと思われたくなかった。
そしてこの後から緑谷の秘密の筋トレ地獄に爆豪が追加され、度々ボコされては瑠奈に助けを求めるも、彼女は彼女で「いい訓練になるよ」と見守られ、更には見た目によらず血気盛んな彼女が緑谷や爆豪に仕掛け始めたりと、妙に喧嘩慣れした三人組が爆誕することになる。
余談だが、心の底でドキドキしながらいつ彼女に押し倒され、そのか細い白い足で踏まれてしまうのかと期待のような恐れのような気持ちを抱いていた爆豪だったが、どれだけ一緒に筋トレしても彼女を相手に組手をしても、あの日のように足蹴にされることはなく、彼の悶々とした性癖の歪みは正される機会を失っていくのだった。
一人は何もできない無個性のデク。もう一人は逆に俺以上に何でも軽々こなして見せるルナ。
両極端だが幼稚園からの付き合いで小学生に上がった今でも一緒にいることが多い。
俺はこの二人に全く真反対の、だからこそ似ているともいえる感情を抱いている。そしてそれを早い段階で自覚した。そんな様子を含めて、周りの大人は俺のことを早熟の天才だとか何とか形容する。その言葉に相応しいのは俺以外にもそばにいるというのに。あいつは大人に対して隠すのが異様に上手いから。
「ついてくんなっつてんだろ」
「そんなこと言わないでよぅ……」
涙目で、しかし足取りはしっかりと俺についてくる緑谷出久。昔っから後をついてくるこいつの性格と考え方、ひっくるめて不気味で気持ち悪いのでいつからか俺はこいつを拒絶している。
それをこいつがものともせず後にくっついてきているから、ならばどちらが上かをはっきり分からせるためにいつだって俺はこいつの上に立つ。
「……お前は、はよこいや」
「? なんで?」
「あ? ルナお前は常に俺の隣にいて、常に俺が上に跳ぶための足場になンだよ」
「かっちゃん一人でだって勝手に飛べるじゃん」
小柄な身体に見合った小さい口で知ったような口を聞く月城瑠奈。こいつもこいつで歳に不相応なほど訳わからん思考回路してるが、その完成されたような心と体の強さに惹かれた。こいつのその思考回路に俺という存在を組み込ませたくなった。ので、こいつは常に隣に置くために行動している。
この少女は聡く強い。隣にいるこの俺が、まるでただのガキに成り下がってしまったように感じさせるほど、大人びた顔をすることがある。そしてそれを大人には綺麗に隠してしまうのに、俺には綻びを見せる。それさえ分かっていて気を抜いているのだと分からせられてしまっている。
……こんなの、目ェ離せないだろ。
三人でいるときは大抵デクの隣で世話を焼く少女の姿に、俺はいつも小さく奥歯を噛みしめている。なんであいつばかり。何もないやつなのに。
俺は意識しないと隣に立てないのに。無個性のあいつは何もしなくても横に並びに行きやがる。なんで。
いつ頃からだったか、デクとこいつが二人でこそこそ何かをしていることに気付いた。俺を抜きに、俺に黙って一体何をと暴れ散らかしそうな心を抑えてこっそり様子を見に行ったところ、瑠奈が、涙目で踏ん張るデクを蹴倒していじめていた。
えっと思う間もなく、立ち上がりかけたデクをまたしても個性のリボンで引き倒し、地面に這いつくばって涙目でうごうごしているデクを足蹴にして彼女は目を細めて微笑んでいた。
爆豪はしばらくその光景を前に体が硬直していたのだが、ハッとしてそそくさとその場を後にした。何か見てはいけないものを見てしまった気分だ。踏まれるデク、それを踏みつけて可愛く笑う瑠奈の顔が焼き付いて離れない。ドキドキと変に胸が高鳴る。爆豪が瑠奈に性癖を歪まされ始めた最初の一歩であった。
「……? なんでまだ立ってる……?」
ある時デクの異変に気が付いた。
当人はわかっていない様子であったが、明らかに今までよりもしっかりと爆豪の動きについてきていた。デクの体力の限界を飛ばした動きで追いつけないよう、転んだら立ち上がれないくらいに突き放したはずだった。
体力がついただとか筋力が付いたとか、もう少し年齢が上がれば理由に見当を付けられただろうが、まだ小学1年生である。ただただ、彼がほんの少し強くなったのだと理解し、それが誰の仕業なのかを認識した。
「おいルナ、お前だろ」
そうとわかれば爆豪の行動は早かった。いつも彼女が好んでいる場所を片っ端から探し出し、そんな彼から逃れるように木の太い枝の上で猫のように休んでいる彼女を見つけて問いをぶつけた。なんであんな高いとこにいるんだあいつ。
「なにが?」
暖かい木漏れ日と風に眠気を誘われているのか、存外柔らかく帰ってきた声になぜか爆豪のこころがきゅっとつままれたような心地がした。
「デクのやつ! お前が何かしたんだろ」
「うん」
思ったよりすんなりと返事が返ってきてたじろぐ。なんだ、俺に隠れてこそこそしていたわけじゃないらしい。ほわっと安心が胸に根を下ろす。
「ならそれ俺もやらせろ!」
瑠奈に強く言う。デクだけ、無個性のやつに負けてられるかよ。強さも、こいつといる時間も、心の距離だって。こちとら早熟だろうと自覚してンだよ。
意気込んで木の上の瑠奈を見つめていたら、目の前にふわりと音もなく飛び降りてきた瑠奈が立つ。着地音だとか、身のこなしだとか、何をとっても小柄な彼女はこちらを見上げているのに何故か自分より強大な何かを前にした気分になる。ごくりと喉を鳴らして生唾を飲む。
「かっちゃんが? もう十分強いのに?」
「関係ねえ。お前よりさらに上に行くんだ、俺にも教えろ」
しばらく爆豪を見て考え込んだ瑠奈は、しばらくして「いいよ」と言った。
彼女からのOKの返事に、心の中がぱっと喜色に塗れるが何とか外に出さないよう抑える。たったこれっぽっちのことで喜ぶのだと思われたくなかった。
そしてこの後から緑谷の秘密の筋トレ地獄に爆豪が追加され、度々ボコされては瑠奈に助けを求めるも、彼女は彼女で「いい訓練になるよ」と見守られ、更には見た目によらず血気盛んな彼女が緑谷や爆豪に仕掛け始めたりと、妙に喧嘩慣れした三人組が爆誕することになる。
余談だが、心の底でドキドキしながらいつ彼女に押し倒され、そのか細い白い足で踏まれてしまうのかと期待のような恐れのような気持ちを抱いていた爆豪だったが、どれだけ一緒に筋トレしても彼女を相手に組手をしても、あの日のように足蹴にされることはなく、彼の悶々とした性癖の歪みは正される機会を失っていくのだった。