7.5 責任を取ろうと張り切るかっちゃんの話
勉強を見てやるから雄英に進路変更しろ。そう言って瑠奈に俺の手で書き換えた進路希望書を押し付けた。
そこからすぐに行われた三者面談で、成績的に厳しいと言われた彼女が約束通り俺を頼ってきたのでわからない程度にほくそ笑む。
彼女はその辺のレベルなら推薦が取れる程度の成績はおさめていたのを知っている為、成績がそこまで悪いとは思わなかったが難関校ともなればこうなると踏んでいた。様子を見ている限り数学なんかの苦手科目にも苦戦しているらしいので尚更だ。
いつから勉強会をするか取り決めた時にしばらく時間をもらって部屋に彼女を招くための準備を進める。一人で勉強を進めるのと人に教えるのとでは必要な物、特にノートや教科書を広げるスペースが圧倒的に足りない。俺と瑠奈が並んで使えるサイズのテーブルが欲しい。理想を言えば「対面では教科書が置けない」と言い訳できるちょうどいいサイズの机が。我ながらやることがみみっちい気がしないでもないが、ここで手を抜いて詰められる距離を詰めない理由などない。ことこの件において、幼少期に自覚して以降余裕などないのだ。
「ローテーブル、参考書……ソファは入らねェ。座椅子……マグカップ、要るか……?」
部屋に彼女を呼ぶ、と想像すればポンポンと浮かぶ物たちに、中学生男子にそこまでの資金力は無いと妄想を消す。ただでさえ趣味にかかる金額もあるのだ、必要最低限にしておいて後々増やしていけばいい。あわよくば、そのまま自宅より居心地がいいと思わせられれば勝ちである。高校に入ってから万が一クラスが離れたとしても、ここで勉強するために帰ってくると思わせられれば毎日会えるのだから。恋する10代男子の動機に不純でないところなどない。
そうして親へ最低限にまとめた購入リストを渡すと途端にニヤニヤと探りを入れてくる。いちいちそんなことをしなくともこの気持ちは親ですら感知しているだろうに。
母親のあらゆるちょっかいを黙殺して貯金から切り崩したお金を渡す。悔しいがこういったセンスはデザイン系の仕事についていた両親の方に軍配が上がる。
黙殺されながらも、「女の子呼ぶなら床にラグマット敷な! 追加しといたげるから!」と言われるまま追加決定した。なんでだよ座椅子あンだろ、と思ったが、瑠奈に心の中ででも「あ、ラグ無いんだ」などと思われたくなかったので黙って頷いておいた。
あとは何か。他に必要な物。消臭グッズか、はたまたアロマ系か。趣味は知られているから隠す必要はなさそうだが、一応の目隠しは要るのか。
そんなことを気にする女じゃないだろとわかっているものの、部屋に10年を超える年月を想い続けた相手が入ってくると思うと浮き立つ心はなかなか降りてこなかった。
気を取り直そうと一度時間を置いていると、母親からお迎えのお菓子とドリンクは何がいいかを聞かれた。
「……俺が買っとく」
瑠奈の好きなもの、好む味や飲み物は誰よりも自分が把握している。それだけの自信があった。そしてそれを他の誰にも共有したくねぇなと咄嗟に思ってしまった。
ちょうど悶々としていたので買い物に出る。頭の中には彼女の喜ぶ顔がずっと浮かんでいた。
彼女は甘いジュースよりも温かいお茶を好み、たまに爽やかな炭酸系を飲む。菓子に関しては逆に幼い子供のように砂糖菓子の甘さとキラキラした見た目のものを好む。少し前に琥珀糖が気になると言っていた。
「……さすがにねぇか」
琥珀糖はその辺に売ってあるものでもない上、手作りするにも若干時間がかかる。今回は諦めて、次回呼ぶときの餌にすることにした。
目の前には今回の探し物。一番最初に知ったのは小学校に上がる前。駄菓子屋でヒーローカード付チョコを手に取る俺たちの横で瓶の中に入れられた色とりどりのそれに目を奪われていた彼女の姿。珍しく頬を紅潮させて「これ、甘いのかな!? 知ってる?」と興奮を滲ませながら俺に聞いてきた。
「砂糖の塊だからクソ甘い」と聞いて買って食べて以降、今でもたまにカバンに忍ばせているのを知っている。
「デカイのもあンのか……好きそうだな」
大粒の金平糖を前に驚き喜ぶ顔を想像してしまって口角が上がる。
さっさと金平糖とちょっといい茶葉を購入して、次回のための琥珀糖の材料も揃えてから帰ると母親に「お茶菓子はこのメンツで本当に大丈夫!?」と疑われたが押し切った。
柄にもなく楽しみだ。
そこからすぐに行われた三者面談で、成績的に厳しいと言われた彼女が約束通り俺を頼ってきたのでわからない程度にほくそ笑む。
彼女はその辺のレベルなら推薦が取れる程度の成績はおさめていたのを知っている為、成績がそこまで悪いとは思わなかったが難関校ともなればこうなると踏んでいた。様子を見ている限り数学なんかの苦手科目にも苦戦しているらしいので尚更だ。
いつから勉強会をするか取り決めた時にしばらく時間をもらって部屋に彼女を招くための準備を進める。一人で勉強を進めるのと人に教えるのとでは必要な物、特にノートや教科書を広げるスペースが圧倒的に足りない。俺と瑠奈が並んで使えるサイズのテーブルが欲しい。理想を言えば「対面では教科書が置けない」と言い訳できるちょうどいいサイズの机が。我ながらやることがみみっちい気がしないでもないが、ここで手を抜いて詰められる距離を詰めない理由などない。ことこの件において、幼少期に自覚して以降余裕などないのだ。
「ローテーブル、参考書……ソファは入らねェ。座椅子……マグカップ、要るか……?」
部屋に彼女を呼ぶ、と想像すればポンポンと浮かぶ物たちに、中学生男子にそこまでの資金力は無いと妄想を消す。ただでさえ趣味にかかる金額もあるのだ、必要最低限にしておいて後々増やしていけばいい。あわよくば、そのまま自宅より居心地がいいと思わせられれば勝ちである。高校に入ってから万が一クラスが離れたとしても、ここで勉強するために帰ってくると思わせられれば毎日会えるのだから。恋する10代男子の動機に不純でないところなどない。
そうして親へ最低限にまとめた購入リストを渡すと途端にニヤニヤと探りを入れてくる。いちいちそんなことをしなくともこの気持ちは親ですら感知しているだろうに。
母親のあらゆるちょっかいを黙殺して貯金から切り崩したお金を渡す。悔しいがこういったセンスはデザイン系の仕事についていた両親の方に軍配が上がる。
黙殺されながらも、「女の子呼ぶなら床にラグマット敷な! 追加しといたげるから!」と言われるまま追加決定した。なんでだよ座椅子あンだろ、と思ったが、瑠奈に心の中ででも「あ、ラグ無いんだ」などと思われたくなかったので黙って頷いておいた。
あとは何か。他に必要な物。消臭グッズか、はたまたアロマ系か。趣味は知られているから隠す必要はなさそうだが、一応の目隠しは要るのか。
そんなことを気にする女じゃないだろとわかっているものの、部屋に10年を超える年月を想い続けた相手が入ってくると思うと浮き立つ心はなかなか降りてこなかった。
気を取り直そうと一度時間を置いていると、母親からお迎えのお菓子とドリンクは何がいいかを聞かれた。
「……俺が買っとく」
瑠奈の好きなもの、好む味や飲み物は誰よりも自分が把握している。それだけの自信があった。そしてそれを他の誰にも共有したくねぇなと咄嗟に思ってしまった。
ちょうど悶々としていたので買い物に出る。頭の中には彼女の喜ぶ顔がずっと浮かんでいた。
彼女は甘いジュースよりも温かいお茶を好み、たまに爽やかな炭酸系を飲む。菓子に関しては逆に幼い子供のように砂糖菓子の甘さとキラキラした見た目のものを好む。少し前に琥珀糖が気になると言っていた。
「……さすがにねぇか」
琥珀糖はその辺に売ってあるものでもない上、手作りするにも若干時間がかかる。今回は諦めて、次回呼ぶときの餌にすることにした。
目の前には今回の探し物。一番最初に知ったのは小学校に上がる前。駄菓子屋でヒーローカード付チョコを手に取る俺たちの横で瓶の中に入れられた色とりどりのそれに目を奪われていた彼女の姿。珍しく頬を紅潮させて「これ、甘いのかな!? 知ってる?」と興奮を滲ませながら俺に聞いてきた。
「砂糖の塊だからクソ甘い」と聞いて買って食べて以降、今でもたまにカバンに忍ばせているのを知っている。
「デカイのもあンのか……好きそうだな」
大粒の金平糖を前に驚き喜ぶ顔を想像してしまって口角が上がる。
さっさと金平糖とちょっといい茶葉を購入して、次回のための琥珀糖の材料も揃えてから帰ると母親に「お茶菓子はこのメンツで本当に大丈夫!?」と疑われたが押し切った。
柄にもなく楽しみだ。