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桜散る季節。新しい生活の始まるこの日に、早くに登校した新しい教室で、立て始めてから十年近く経つ計画を着実に進めて来た私は高校入学に際して喜びに打ち震えていた。教室内に人が居なくてよかった。
目指したのは雄英高校。確かに難関校だった。しかも倍率300を超えるらしいヒーロー科。入試難易度もさるものだったが、瑠奈が震えるほど喜んでいたのはそんなことでは無かった。

「ふふ……ひとり暮らしとヒーロー科入学、計画の上では必須だけど想像通りゴネられたものね」

ひとり暮らしの方は興味無さそうに早々に許可を得たが、父親は私に医学方面へ進めたがった。それもそうだろう、有名医師として名を馳せる父は個性婚から個性の植え付けなど倫理崩壊待ったナシ、あらゆる手を使って次世代の自分後継機を作りたがった男だ。成長してから調べて知ったことだが、治癒個性を持つ母親すら私を産んですぐ頃に使い潰すように衰弱死させた男でもある。早いところ医師への道を歩ませたかったのだろうが、どうせ治癒個性を使用しての医療行為にはヒーローライセンス取得が必須である。「成績に問題はないので、ライセンス取得で手間取るより先に取得していけるヒーロー科の方がスムーズだと思います」と提案したのだ。納得までは行かないものの、筋は通った説得である。

「でも、ゴネた割には急に意見を変えた気がするのよね」

何度言い募っても結局医療方面に強い学校へ願書を出させようとしていたのが、ある日を境に雄英高校ヒーロー科であればと手のひらを返したのである。
予測というよりもただの想像ではあるが、名すら未だに知らぬあの男――個性を無理矢理に植え付けた、地獄の苦しみを与えた張本人――から命令でも下されたのだ。
あれ以来直接会うことこそないものの、父親にはよくコンタクトをとっては"頼み事"をしているようだった。1、2度通話させられたことがあるが、その様子からこちらの心の裡を見透かすような言動をするので、そういった個性を持つ者が手の内にいるのだろう。極力直接コンタクトは取らないようにしていた。あの男の推測だが、個性を与える個性に対する打開策も、抵抗手段すら。文字通り死ぬほどの努力は積んだものの、未だ私には復讐のためのあらゆる力が足りないのだ。このまま目的を果たさんとすれば、きっと良くても相打ちにしかならない。

「相手のために手を汚すなんて……人生を棒に振るなんて馬鹿のすることですもの」

復讐は果たす。しかし私は私の人生を謳歌しないと。小さい声でそう笑いながら、そろそろ人の気配が増えてきた校舎を感じながら中央列後方の指定された己の席に着いて窓の外を眺めながら過ごすことにした。
しばらくするとガラッと短く勢いをつけて扉が引かれる。入ってきた目付きと姿勢の悪い男子生徒と目が合う。若干驚いたような紅玉のような目が見開かれていた。

「……」
「……」

お互い一瞬停止するも、なんの言葉を交わすことも無く視線を外して各々の時間を過ごす。何となく、言葉はなくとも視線だけで"喧しい奴では無いな"と判断できたからである。



その後続々と人が増えて行く中で先程の男子生徒がガラ悪く対応する姿を見て(物静かかと思った訳では無いけれど、そういう感じだったのね)と認識を改めたり、己自身が声をかけられることも増え、静かに過ごせるのもその辺までかと考え始めた頃。

「お友達ごっこしたいなら他所へ行け。ここはヒーロー科だぞ」

寝袋姿で廊下に寝そべり登場した不審者のような担任には驚かざるを得なかった。流石に。
そのまま何かの説明がある訳でもなく着替えてグラウンドへと誘導された。

「個性把握テストォ!?」

ざわつく生徒たちを他所に淡々と個性に関するテストを行うと言う。あのロボを倒す入試だけでは測りきれなかった繊細な、もしくは別の扱い方でも
見ておきたいのだろうか?

「入学式は!? ガイダンスは!?」
「ヒーローになるならそんな悠長な行事に出る暇ないよ」
「(もしくは、教師側も自由だと言うこの教師が試したい・確認したい生徒及び個性がある場合)」

ヒーロー科は2クラスあるそうだが、このクラスだけが式典より優先して試されることがあるというのならば、ただ単なる体力テストでは無いはずだ。

「(と、思うのだけど……)」
「んじゃまぁ、死ねぇ!!!」
「あら素敵」
「(((す、素敵……?)))」

個性を使わずとも規格外な記録を出しているあの赤目の男子は爆豪と言うらしい。何やらものすごい爆風に乗せてソフトボールを投げて705.2mという記録を叩き出した。素直にすごいすごいと小さく手をぱちぱちさせていると、そんな浮ついた反応が気に入らなかったのか相澤先生はいいことを思いついたというように軽く「最下位は除籍にしよう」と言いだした。うーん、それは少し困ってしまう。
同じくアワアワと困っているらしい緑の癖毛男子がおろおろと周囲を見ている。でも私も似たような心境である。

「こういう体力テストに向かない個性のだけれど……」

はあ、とため息を吐いている間にも他の生徒たちは理不尽だなんだと抗議をしている。なるほど訴えてみるのか。私はとりあえずまず受け入れて考えていたから斬新な考えだ、と様子を見ていると、「世の中理不尽で溢れてる。Plus ultraプルス・ウルトラだよ、乗り越えて来い」との一言で一蹴されていた。
なるほど、彼の中にふるい落としたい生徒がいるということだ。それが性格なのか個性なのか、故は分からないけれど。

「はあ〜こんなことになるなんて思わんかったよ……」
「本当に。出来ることを頑張りましょ? 私もこういうことには不向きな個性だから」
「そうなん!? えっうん一緒にがんばろう〜!!」

抗議していた内の女子生徒はどうやらこちら寄りの思考であるらしい。ちょうど挑戦的なグループと困っているグループに二分されている。
それぞれの個性も確認したかったのでその点はラッキーであったと考えよう。

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