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個性把握テストだかなんだか知らねェが、個性アリで自分の限界を知ることが出来るこの機会をみすみす手放すわけねぇよなァ!?
「(まだいけるな)」
ソフトボール投げのデモンストレーションを終え、さあ50m走から始まると言う時、前に並ぶ小さな背格好の女子生徒が「出来ることをやりましょ、私もこういうことに不利な個性なので」と弱々しく言葉にしているのが聞こえた。
「あいつは……」
声は初めて聞いたが、姿は今朝最初に会った人間なので覚えていた。あの一見物静かだが確固とした強い意志を秘めていた印象的な目の女。ひと目で強い女だとわかった。名前は知らんが。しかしあの時の彼女の瞳はこんな弱気なことを弱々しく口にするような奴ではないと感じたのだが。そう違和感と少しの落胆を覚えたが、とりあえずあの入試を超えてきたんなら最下位は心配せずとも無個性のデクだ。
そう思って見ていた。
「月城、4秒30!」
「あれぇ!? 速いやん!??」
「フフフ」
月城というのかと彼女の苗字を脳裏に刻みつつ、何か個性を使用したようには見えなかったが、常時発動型なのか。見た目に変化は特にないようだとさりげなく観察する。己の中学生時代の記録を軽く抜かれていた。
丸顔の女生徒に「え〜っ何の個性なん!?」と問い詰められているのに自然と聞き耳を立ててしまっていたが、彼女は「当ててみて」と言ったきり控えめに笑うばかりだった。くそ。気になって気があちらへ流れる。
その後自分の番では個性を使って加速し、結果としては4秒13と上々ではあるが、感覚としてはやはりこれからの鍛錬が必要だと感じる結果となった。なんとなく直前の彼女に負けるわけに行かねェと記録を意識してしまった。ちらとあとを見ればデクもロクな記録が出ていないようだ。
その後、第2種目の握力で「あら……」とか弱く呟く彼女の声を拾ってちらりと様子を見ていると残念そうな彼女の顔と15kgという理解の追いつかない程の貧弱な記録に2度見したり、第3種目の立ち幅跳びで爆破の個性で跳ぶ己に近しい結果を叩き出した割にその謎に優雅に軽い浮遊感のある飛ぶ姿に訳が分からなくなったり、第4種目の反復横跳びで意外な機敏さを発揮しているようだといちいち目で追っては、叩き出したのがかなりいい成績であれば闘争心を燃やし、かと思えば脆い硝子細工なのかと思うほどの理解不能な儚い成績に目を疑ったりと、ある意味で気に食わないデクとの張合いよりも結果を気にしている自分がいた。それもこれも焦らすように隠された謎個性のせいである。大体の当たりはつけているが確信には至らないのだ。
第5種目のソフトボール投げでは初っ端から無限などという規格外の記録が出たが、そんなことより謎個性の彼女の記録がどうなのかと目で追っていた。俺の記録に近いのか、はたまた握力のように雑魚を下回ってもはや儚さすら感じさせる貧弱さなのか。
構える彼女が独特の呼吸をしていることに気付く。長く息を止めて力む瞬間に短く吐き出し、同時にボールを投げた。
「月城、102m!」
貧弱な結果では無いが、一般的に見れば相当な結果だ。しかし今のアレは個性だったのか?
むくむくと気になりだしたが、その後の己の出番とすぐあとのデクがここに来てデタラメな結果を出したことでカッと頭に血が上って気になっていたことは霧散した。
意味がわからない。ついこないだまで無個性だった石コロがあんな記録を出せた理由を吐かせようとデクに詰め寄るも、個性を抹消された上に捕縛武器で拘束されそれも叶わず。勢いを殺されたあとそのまま次の上体起こしの準備へと促された。ワナワナと発散できない憤りを抱えたまま元凶のデクを睨みつけていると、すぐ隣から涼やかな声が空気を裂いた。
「先生、私の個性で治癒しても?」
「あー…いいだろう個性把握テストの内だ、許可する」
すすす、と滑るように進み出て来たのはあの謎個性女で。その横顔は何故か嬉しそうに口角が上がりきっていた。何だよそれ。なんだよその顔は。お前、常時発動型の肉体強化系個性じゃねーのかよ。それじゃあ今まで叩き出してきたあの記録は個性も使わず 出した結果だとでも言うのかよ。
「私の個性、麻酔と治癒なの。とりあえず麻酔打つね」
「ェア、アッハイ」
吃るデクの手を取り、自分の細い人差し指の爪を怪我をした手の甲に優しく突き立てた。
「……あ、感覚が無くなった……! 痛くない!」
「フフ」
そのまま変色して歪な形をしたデクの人差し指を両手で包むと、ほわっと光った次の瞬間には手が離れ、指の色もほぼ元通りに戻っていた。
おおー! と歓声が上がり、先生から次の種目の準備にと声をかけられるまで盛り上がりを見せていたが、そんなことよりも俺は背筋を這い上がる怖気のようなものが止まらなかった。治癒と麻酔の個性でどうやってあの入試を突破してきたんだよこの女は。
その後上体起こし、長座体前屈、持久走その全てで上位に食い込む結果を出していた。周囲からの質問に「ああ、持久走は個性フル活用できるから得意なの。疲労する端から回復してるからこのくらいなら疲れず走れるの」と口元に手を当てて控えめに笑う彼女にゾッとすると同時に、強烈なライバル意識が生まれるのを感じた。
月城瑠奈だったかあの女、初対面で感じた後には綺麗に消えていたあの底知れなさは健在だった。どういう訳か、この全国でひと握りの優秀な雄英合格者の中でもトップクラスに身体が鍛え上げられている。個性こそ戦闘向きでない癖に、どうやってかあのバチバチに戦闘特化の入試すらくぐり抜けてきているほどに。だってそうだろ? 個性フル活用の俺らにほぼ個性なしでここに並び立ってるんだこの女は。
デクのこと含め気に入らねェこともあったが、久々に闘争心に火がついた。
とにかく話はまずはあのいけすかねぇ仮面剥がしてからだ。
ゾクゾクと駆り立てるような闘争心に隠れて本人すらこの時は気付けなかったが、これが爆豪勝己の一目惚れであったと後に自覚し認めたくないと血を吐くほど悩みまくることになるのはもう少し先の話である。
「(まだいけるな)」
ソフトボール投げのデモンストレーションを終え、さあ50m走から始まると言う時、前に並ぶ小さな背格好の女子生徒が「出来ることをやりましょ、私もこういうことに不利な個性なので」と弱々しく言葉にしているのが聞こえた。
「あいつは……」
声は初めて聞いたが、姿は今朝最初に会った人間なので覚えていた。あの一見物静かだが確固とした強い意志を秘めていた印象的な目の女。ひと目で強い女だとわかった。名前は知らんが。しかしあの時の彼女の瞳はこんな弱気なことを弱々しく口にするような奴ではないと感じたのだが。そう違和感と少しの落胆を覚えたが、とりあえずあの入試を超えてきたんなら最下位は心配せずとも無個性のデクだ。
そう思って見ていた。
「月城、4秒30!」
「あれぇ!? 速いやん!??」
「フフフ」
月城というのかと彼女の苗字を脳裏に刻みつつ、何か個性を使用したようには見えなかったが、常時発動型なのか。見た目に変化は特にないようだとさりげなく観察する。己の中学生時代の記録を軽く抜かれていた。
丸顔の女生徒に「え〜っ何の個性なん!?」と問い詰められているのに自然と聞き耳を立ててしまっていたが、彼女は「当ててみて」と言ったきり控えめに笑うばかりだった。くそ。気になって気があちらへ流れる。
その後自分の番では個性を使って加速し、結果としては4秒13と上々ではあるが、感覚としてはやはりこれからの鍛錬が必要だと感じる結果となった。なんとなく直前の彼女に負けるわけに行かねェと記録を意識してしまった。ちらとあとを見ればデクもロクな記録が出ていないようだ。
その後、第2種目の握力で「あら……」とか弱く呟く彼女の声を拾ってちらりと様子を見ていると残念そうな彼女の顔と15kgという理解の追いつかない程の貧弱な記録に2度見したり、第3種目の立ち幅跳びで爆破の個性で跳ぶ己に近しい結果を叩き出した割にその謎に優雅に軽い浮遊感のある飛ぶ姿に訳が分からなくなったり、第4種目の反復横跳びで意外な機敏さを発揮しているようだといちいち目で追っては、叩き出したのがかなりいい成績であれば闘争心を燃やし、かと思えば脆い硝子細工なのかと思うほどの理解不能な儚い成績に目を疑ったりと、ある意味で気に食わないデクとの張合いよりも結果を気にしている自分がいた。それもこれも焦らすように隠された謎個性のせいである。大体の当たりはつけているが確信には至らないのだ。
第5種目のソフトボール投げでは初っ端から無限などという規格外の記録が出たが、そんなことより謎個性の彼女の記録がどうなのかと目で追っていた。俺の記録に近いのか、はたまた握力のように雑魚を下回ってもはや儚さすら感じさせる貧弱さなのか。
構える彼女が独特の呼吸をしていることに気付く。長く息を止めて力む瞬間に短く吐き出し、同時にボールを投げた。
「月城、102m!」
貧弱な結果では無いが、一般的に見れば相当な結果だ。しかし今のアレは個性だったのか?
むくむくと気になりだしたが、その後の己の出番とすぐあとのデクがここに来てデタラメな結果を出したことでカッと頭に血が上って気になっていたことは霧散した。
意味がわからない。ついこないだまで無個性だった石コロがあんな記録を出せた理由を吐かせようとデクに詰め寄るも、個性を抹消された上に捕縛武器で拘束されそれも叶わず。勢いを殺されたあとそのまま次の上体起こしの準備へと促された。ワナワナと発散できない憤りを抱えたまま元凶のデクを睨みつけていると、すぐ隣から涼やかな声が空気を裂いた。
「先生、私の個性で治癒しても?」
「あー…いいだろう個性把握テストの内だ、許可する」
すすす、と滑るように進み出て来たのはあの謎個性女で。その横顔は何故か嬉しそうに口角が上がりきっていた。何だよそれ。なんだよその顔は。お前、常時発動型の肉体強化系個性じゃねーのかよ。それじゃあ今まで叩き出してきたあの記録は
「私の個性、麻酔と治癒なの。とりあえず麻酔打つね」
「ェア、アッハイ」
吃るデクの手を取り、自分の細い人差し指の爪を怪我をした手の甲に優しく突き立てた。
「……あ、感覚が無くなった……! 痛くない!」
「フフ」
そのまま変色して歪な形をしたデクの人差し指を両手で包むと、ほわっと光った次の瞬間には手が離れ、指の色もほぼ元通りに戻っていた。
おおー! と歓声が上がり、先生から次の種目の準備にと声をかけられるまで盛り上がりを見せていたが、そんなことよりも俺は背筋を這い上がる怖気のようなものが止まらなかった。治癒と麻酔の個性でどうやってあの入試を突破してきたんだよこの女は。
その後上体起こし、長座体前屈、持久走その全てで上位に食い込む結果を出していた。周囲からの質問に「ああ、持久走は個性フル活用できるから得意なの。疲労する端から回復してるからこのくらいなら疲れず走れるの」と口元に手を当てて控えめに笑う彼女にゾッとすると同時に、強烈なライバル意識が生まれるのを感じた。
月城瑠奈だったかあの女、初対面で感じた後には綺麗に消えていたあの底知れなさは健在だった。どういう訳か、この全国でひと握りの優秀な雄英合格者の中でもトップクラスに身体が鍛え上げられている。個性こそ戦闘向きでない癖に、どうやってかあのバチバチに戦闘特化の入試すらくぐり抜けてきているほどに。だってそうだろ? 個性フル活用の俺らにほぼ個性なしでここに並び立ってるんだこの女は。
デクのこと含め気に入らねェこともあったが、久々に闘争心に火がついた。
とにかく話はまずはあのいけすかねぇ仮面剥がしてからだ。
ゾクゾクと駆り立てるような闘争心に隠れて本人すらこの時は気付けなかったが、これが爆豪勝己の一目惚れであったと後に自覚し認めたくないと血を吐くほど悩みまくることになるのはもう少し先の話である。