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次の日。
午後にヒーロー基礎学を控えたこの日、午前中の一般教科をつつがなく受け終えてクラスの女子たちと昼食のために食堂へとやってきていた。

「この後ヒーロー基礎学だよ!? さすがにちゃんと食べなよ!?」
「そうですわね……、ランチラッシュのお手製ですから口に合わなかったわけではなさそうですし……食べられないものでも?」

心配と驚きで声を上げたのは一緒に来ていた耳郎と八百万である。あまりに驚いたのか耳郎が大きな声でいうものだから、近くに居た生徒たちまでちらちらと視線を寄こしてくる。

「ちゃんと食べてるつもりなんだけど……」

本心である。量は確かに少ないかもしれないが、横に並ぶ八百万の量がやばいので相対的に私の摂る量が少なく見えているのだと思っている。
元々小食ではあるのだが、実家に居たころに強制されていた食事から解放されたことで一気に頓着しなくなった結果、引越し後から今日にいたるまでの数日間で急激に落ちた食事量に合わせて胃が縮んでさらに食が細くなっているらしい。

「今日はこれ以上食べると吐いちゃいそうだから勘弁して……?」

八の字に下げた眉で困ったように言えば、二人とも強く言い募りはできなかったようで「少しずつでも量増やしていきなよね……」と苦言を呈するに留まった。
ふう、とやり過ごせたことに胸を撫で下ろして、皿に残ったオムライスを苦心して片づけた。



「わたしが普通にドアから来た!」

ざわざわと期待に蠢いていた周囲の空気がオールマイトの登場によって一気に爆発する。
ヒーローを目指す私たちにとって最も重要かつ楽しみな科目である。
例に漏れず私もそわそわと心が浮足立つ。だって私の未来のために、計画のために絶対落としてはならない科目だ。
早速戦闘訓練だというので、本当にお昼を無理して食べなくてよかったと思った。絶対に吐き戻してしまう。
血の気が多い人が多いのか、さらに沸き立つ中オールマイトの手で示されたのはずらりと並ぶ大きなアタッシュケース。

「入学前に送ってもらった個性届と要望に沿ってあつらえた戦闘服コスチューム!」

着替えてグラウンドへ集合との声に、皆一斉に元気よく返事をした。



「あれ、瑠奈ちゃんなんかすごい戦う巫女さんみたいな感じやね!? そして黒いなっ!?」

早々に着替えて集まったクラスメイトは口々にそれぞれのコスチュームについて話している。
その中に足を踏み入れれば、気が付いたお茶子ちゃん――麗日ちゃんと呼んだときに下の名前の方がいいなーとむずがゆそうな顔でお願いされた――に声をかけられた。

「もちろん。リカバリーガールみたいに後方支援だと思った?」
「うん……! 治癒系ってどうしても貴重やし! でも瑠奈ちゃん動けるもんね!」
「まあね。それにほら、裏地と中身はオレンジ」
「わ、インナーカラーみたい! かっこいい!」

個性柄肌を介するので露出は止む無しかと考えたが、分泌した麻酔を指向性を持たせて扱うには空気を利用する必要があるため布を多めに、そのすべてにスリットを施すことで露出も最低限に抑えられた。
着脱しやすくするために胴部分と下半身、腕、足と四肢でそれぞれが分割されてはいるものの肌を覆う多めの布のおかげで動かなければ露出するのは顔だけである。
一見緩く袴と振袖着物を着ているようにすら見えるが、ホルターネックの胴と袴のような布の中に履いたドロワーズ以外のすべての布は細かにスリットが入れられており、末広がりの袖も帯から伸びる袴のような布も、動きに合わせてはためいて扇の役割を果たす。
肌のどこからでも個性が使える私に都合のいいデザインになっている。
一点だけ、靴の要望に動きやすかろうと「登山靴で」と入れてあったはずが、却下され安全靴の機能を取りいれたショートブーツに変更されていた。夏、蒸れるでしょうね……。


「色は白だけ断固拒否したの。なんかハロウィンのかぼちゃみたいになっちゃったわ」

ひらっと下半身を隙間なく覆う布のスリットをめくりあげて中のオレンジのドロワーズを見せる。
まるで皮の黒いかぼちゃのようだ。そういうと「かぼ……ぶふっ」と後ろで耳郎が噴出したのが聞こえた。ムッとしてかわいいでしょう? と言いよると横からお茶子ちゃんが「シルエットがドレスみたいでなんか品があるよ!」とフォローを入れてくれた。

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