6
すっかり日も暮れて明かりもない夜更け。布団という布団もない中かけられた獣の皮の中で千空は早くも後悔し始めていた。
自分の腕の中にある温かくて柔らかな存在に当初予想していたよりずっと意識を割かれ、かき乱されまくっていた。
「クッソ……一人だけさっさと寝入りやがって」
彼女は自己申告通り冷え性だった。4月初頭とはいえ手先・足先が人とは思えないほどに冷え切っており、一つの獣の皮に潜り込んで温めあっていた時は心配になるほどだった。
しかし体温を分け合っているうちに眠くなったのだろう、足を絡めたまま千空の胸に顔をうずめるように小さく身を縮めて寄り添った状態で寝入ってしまった。全く何も心配していない。己が女であるとか、潜り込んだ相手は千空だが男であるとか、そういった事をまるっと全て。
しかしよく考えなくとも丸太を平気で持ち運ぶ相手に対して、ひ弱な千空が何をしたとしても害するに至るわけがないのである。
きっとそういう圧倒的な強さからくる類の安心というか、気の抜き方なのだろうことはわかる。しかしいくら科学に心奪われていると言えども高校生男子。生理的な反応は反射で起きてしまう上、彼女が腕の中で安心して眠る姿を見てしまったとき一瞬でも”千空の腕の中に安心している姿”に見えてしまった。もちろんそんなものはまやかしで勘違いであると理性ではわかりきっているのに、だ。
「……」
魔が差した。
咄嗟に頭の中でそう言い訳した。念などという、彼女曰く理論的エネルギーを駆使して人外の力を発揮する女だ。得体も知れない。
いくら言い訳を並べてみても、つい抱き寄せてみた彼女の柔らかさと温かさとその小ささ――華奢さともいう――に、心の中の、未だかつて動かされたことのない部分がぎゅっと掴まれた気がしたのだ。
指に絡まる長い黒髪を、抱き寄せたときに苦しかったのか「ん”ぅ」と零した小さな声を、温かさを求めて寄せてくる足先を、かわいい、と。思ってしまった。もうダメだった。
「いや、コイツも途中野兎だの野犬だのを無理やり抱き込んで暖を取ってたとか言ってたからな。そういうアレだ、別に……、」
小動物に対するかわいいという気持ち。そういうものと大差ないのだと言い聞かせて落ち着こうとするも、最早そんなことをしている時点で答えは出ているのだが必死で目をそらした。
そうでもしなければ行き場のない気持ちが叫びとなって表出してしまいそうだったのだ。
しかし中々どうして、この人肌の温さは手放しがたく心地よいもので、今後もひとり夜に悶々とすることになりそうだと、既に今からまた一緒に寝ようという彼女の”かわいい”おねだりに屈する未来が見えて複雑な思いを抱える羽目になった。
自分の腕の中にある温かくて柔らかな存在に当初予想していたよりずっと意識を割かれ、かき乱されまくっていた。
「クッソ……一人だけさっさと寝入りやがって」
彼女は自己申告通り冷え性だった。4月初頭とはいえ手先・足先が人とは思えないほどに冷え切っており、一つの獣の皮に潜り込んで温めあっていた時は心配になるほどだった。
しかし体温を分け合っているうちに眠くなったのだろう、足を絡めたまま千空の胸に顔をうずめるように小さく身を縮めて寄り添った状態で寝入ってしまった。全く何も心配していない。己が女であるとか、潜り込んだ相手は千空だが男であるとか、そういった事をまるっと全て。
しかしよく考えなくとも丸太を平気で持ち運ぶ相手に対して、ひ弱な千空が何をしたとしても害するに至るわけがないのである。
きっとそういう圧倒的な強さからくる類の安心というか、気の抜き方なのだろうことはわかる。しかしいくら科学に心奪われていると言えども高校生男子。生理的な反応は反射で起きてしまう上、彼女が腕の中で安心して眠る姿を見てしまったとき一瞬でも”千空の腕の中に安心している姿”に見えてしまった。もちろんそんなものはまやかしで勘違いであると理性ではわかりきっているのに、だ。
「……」
魔が差した。
咄嗟に頭の中でそう言い訳した。念などという、彼女曰く理論的エネルギーを駆使して人外の力を発揮する女だ。得体も知れない。
いくら言い訳を並べてみても、つい抱き寄せてみた彼女の柔らかさと温かさとその小ささ――華奢さともいう――に、心の中の、未だかつて動かされたことのない部分がぎゅっと掴まれた気がしたのだ。
指に絡まる長い黒髪を、抱き寄せたときに苦しかったのか「ん”ぅ」と零した小さな声を、温かさを求めて寄せてくる足先を、かわいい、と。思ってしまった。もうダメだった。
「いや、コイツも途中野兎だの野犬だのを無理やり抱き込んで暖を取ってたとか言ってたからな。そういうアレだ、別に……、」
小動物に対するかわいいという気持ち。そういうものと大差ないのだと言い聞かせて落ち着こうとするも、最早そんなことをしている時点で答えは出ているのだが必死で目をそらした。
そうでもしなければ行き場のない気持ちが叫びとなって表出してしまいそうだったのだ。
しかし中々どうして、この人肌の温さは手放しがたく心地よいもので、今後もひとり夜に悶々とすることになりそうだと、既に今からまた一緒に寝ようという彼女の”かわいい”おねだりに屈する未来が見えて複雑な思いを抱える羽目になった。