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翌日起きると一緒に寝ていた千空は既に起きていて、私が起きるまでじっと私の体を温め続けていてくれたらしい。本人は寝たと言っているがその目元の隈の濃さからしてどうだか怪しいところだ。
私は思春期のそういったことに疎いものの、全くわからないわけではなかったのでからかいついでに本気で嫌がるなら手を引こうと思っていたのだ。しかしそれを阻んだのは他でもない千空自身で、きっと悶々とした夜を過ごした癖にそれを表立って言ってこないのは”どうともなかった”事にしたいのだ。

「思春期云々の前に、まだ15、6歳なんだもの。寂しいのよね」

何もかもが突然失われた世界で、だった一人になってしまったような錯覚に陥る時間。特に一人で眠る夜だとか。その隙を埋める人が近くに居て、尚且つそちら側から共寝の提案などされたなら乗っかるよなあ。
うんうん、と若干見当違いな理由に納得をしている間、千空は何やら自分の起きた場所から辿って行ったのか小さな洞窟へと向かっていた。
あそこには先もなくただただ蝙蝠の巣と化しただけの場所だったが、何があるのかと後をついていく。

「硝酸か……!」
「HNO3?」
「ああ、その硝酸だ……、いや何で化学式がパッと出てくんだよスゲーな瑠奈もしかして理系得意か!?」
「千空が一息でめちゃくちゃ喋り始めた……」
「今化学式なんて出てくると思わなかったから興奮しちまった」
「……昔王水とかの実験で何となく覚えてただけだよ。別に得意というほどでもないかな」
「あ”〜王水な。……濃硝酸と?」
「濃塩酸」
「HNO3と?」
「HCl」
「やっぱ瑠奈化学大好きだろ……!」

理系科目は本気で得意でもなんでもなかったのだけれど、前世で必要知識だったので染みついているだけなのだ。何せ私は無から有を創り出す具現化系能力者。オーラを変換して創り出すものについて、知識は最低限必要なのだ。
私が化学式から脳内に染みつかせている理由などつゆ知らず嬉しそうに話を弾ませる千空に、本当に一瞬だけ、私も彼と同じ時に生まれて前世の記憶もなく、こんな風に話しながら楽しく過ごす世界線もあったのかもしれないと考えた。
残念ながら前世では生き残るために必須の知識として詰め込まれたものだったから好きも嫌いもなかったが、能力者は生まれ持った特性として向き不向きが大きく関係する。つまり私には素質としては科学向きの素養があったということだから。

「でも、今はこうやって千空と話す科学が楽しいかも」
「おっ……な、そ、うかよ」

「化学は得意でも何でもない」と宣う人間の、「千空と話すから今科学が楽しい」という対千空殺しのようなセリフをまともに食らった彼が復帰してくるまでしばらくかかった。

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