8
あれから千空は私と化学式の話ができることをひとしきり喜んだあと、土器の壺に硝酸を溜めては石像にかけまくる作業をしていた。
私は生活のためのあれこれをこなしつつ、その様子を見ていた。
「俺は石になってる間秒数数えまくって年数を割り出しながら過ごしていた」
「3700年分ね。狂ってんね」
「瑠奈おめーも似たようなもんだろ。石化解けてんだから」
「いやあ……」
壺の中に溜めた硝酸を集めた鳥の石像にかけては、私がこしらえた木の棚に置いて皮のメモを付けておく。
「俺らはその考え続ける間、どっかからエネルギーを調達してたわけだ。ざっと計算しても2兆J超えの超エネルギーをだ」
「なるほど、環境は地球 だから要因は石の中にある、と。外的要因の硝酸と石の中の何かを消費すれば石化が解けると。分子構造でも保てなくなるのかな」
「そういうこった。相変わらず理解が理系だな」
「まあ……念能力者はこういうの多いんじゃないかな」
そこまで話すと、ふと千空がこちらを振り向いた。
「お前の外的要因は? なんかあったんじゃねぇか?」
「私はふきっさらしの何もない雪の中で目覚めたからなあ……雪じゃないだろうし」
「よく生き延びたな……」
「気まぐれに念の修行してたからね、エネルギー消費半端なかったんだと思うよ。多分ね」
「純粋に石のエネルギー全部使い切ったうえ、俺より1年以上前に目覚めたのかよ……バケモンだな」
「へへ」
「褒めてね……いや褒めてるか……」
私は途中意識飛ぶ時間もあればずっと修行してたわけでもないのでもし意地でもずっと起きて修行し続けていたら、千空とも出会えず寿命か病気で死んでたかもしれない頃に目覚めていたのだろう。適度にサボってて良かった。
「センクーは起こしたい人がいるんだね」
「石化の謎は前人未踏だぞ。そいつを解きてぇだけだ」
「ふんふん。それには何が必要?」
本音を交えた照れ隠しだろうけれど、顔色含めて上手く隠すものだ。
だって体力のない千空が、地面に埋まった石像をわざわざ掘り起こしてたまに様子を見に行くくらいなのだ。人手としては私という最優の人材がいる。真っ先に目覚めてほしい理由はそう多くない。
まあ私が居るからと言って初めまして状態の人間と心を許せない状態でいるのは随分精神を消耗するだろうから、知り合いを求める気持ちも理解できなくはない。私に余裕があるのはあくまで私を害するものが無いと確信できるほどに私が強いからだ。ライオンが腹を見せて寝るような上位生物ゆえの安心感である。
「前に話題に出た王水も試してぇが塩酸作成がきちぃ。エッチング液も扱いがアレだが……過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムは今の科学力じゃ無理だから……ナイタール液! くっそアルコールさえありゃあな!」
「はは、王水しかわかんないや。エッチングってことは削る?」
「結果はな。だが作用自体は金属の腐食だ」
「ああ〜腐食銅版画!」
「それだ。やっぱ化学方面クソ強いだろ!」
「これは趣味(念能力)の範囲かな」
「”趣味”にやたら含みがあったな……そういう理解があるならどうせさっきの過硫酸アンモニウムも化学式に起こせんじゃねぇか?」
「いや……んー、アンモニウム、はNH3じゃなくてNH4か。と、過硫酸って何?普通に硫酸化合物でSO4じゃないの?」
「一価と二価で引っかかってんぞ」
「あ、アンモニウムイオン一価か! (NH4)2SO4! ……これただの硫酸アンモニウムじゃない?」
「ククッ過硫酸はペルオキソ二硫酸、H2S2O8だ」
「わかるか〜!」
「だいぶ分ってたろ!」
「いやでもやっぱ楽しいよセンクー先生の科学教室が」
「……まあ、基礎があるやつとこうやって話せんのは、いいな」
互いに自分の知識のことを「この程度は標準だろ」と考えている理系二人の認識が改まるのは、千空が石化解除した大樹を「頭雑人間」と説明したことにより大樹が起きてからもっと先になるのであった。
私は生活のためのあれこれをこなしつつ、その様子を見ていた。
「俺は石になってる間秒数数えまくって年数を割り出しながら過ごしていた」
「3700年分ね。狂ってんね」
「瑠奈おめーも似たようなもんだろ。石化解けてんだから」
「いやあ……」
壺の中に溜めた硝酸を集めた鳥の石像にかけては、私がこしらえた木の棚に置いて皮のメモを付けておく。
「俺らはその考え続ける間、どっかからエネルギーを調達してたわけだ。ざっと計算しても2兆J超えの超エネルギーをだ」
「なるほど、環境は
「そういうこった。相変わらず理解が理系だな」
「まあ……念能力者はこういうの多いんじゃないかな」
そこまで話すと、ふと千空がこちらを振り向いた。
「お前の外的要因は? なんかあったんじゃねぇか?」
「私はふきっさらしの何もない雪の中で目覚めたからなあ……雪じゃないだろうし」
「よく生き延びたな……」
「気まぐれに念の修行してたからね、エネルギー消費半端なかったんだと思うよ。多分ね」
「純粋に石のエネルギー全部使い切ったうえ、俺より1年以上前に目覚めたのかよ……バケモンだな」
「へへ」
「褒めてね……いや褒めてるか……」
私は途中意識飛ぶ時間もあればずっと修行してたわけでもないのでもし意地でもずっと起きて修行し続けていたら、千空とも出会えず寿命か病気で死んでたかもしれない頃に目覚めていたのだろう。適度にサボってて良かった。
「センクーは起こしたい人がいるんだね」
「石化の謎は前人未踏だぞ。そいつを解きてぇだけだ」
「ふんふん。それには何が必要?」
本音を交えた照れ隠しだろうけれど、顔色含めて上手く隠すものだ。
だって体力のない千空が、地面に埋まった石像をわざわざ掘り起こしてたまに様子を見に行くくらいなのだ。人手としては私という最優の人材がいる。真っ先に目覚めてほしい理由はそう多くない。
まあ私が居るからと言って初めまして状態の人間と心を許せない状態でいるのは随分精神を消耗するだろうから、知り合いを求める気持ちも理解できなくはない。私に余裕があるのはあくまで私を害するものが無いと確信できるほどに私が強いからだ。ライオンが腹を見せて寝るような上位生物ゆえの安心感である。
「前に話題に出た王水も試してぇが塩酸作成がきちぃ。エッチング液も扱いがアレだが……過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムは今の科学力じゃ無理だから……ナイタール液! くっそアルコールさえありゃあな!」
「はは、王水しかわかんないや。エッチングってことは削る?」
「結果はな。だが作用自体は金属の腐食だ」
「ああ〜腐食銅版画!」
「それだ。やっぱ化学方面クソ強いだろ!」
「これは趣味(念能力)の範囲かな」
「”趣味”にやたら含みがあったな……そういう理解があるならどうせさっきの過硫酸アンモニウムも化学式に起こせんじゃねぇか?」
「いや……んー、アンモニウム、はNH3じゃなくてNH4か。と、過硫酸って何?普通に硫酸化合物でSO4じゃないの?」
「一価と二価で引っかかってんぞ」
「あ、アンモニウムイオン一価か! (NH4)2SO4! ……これただの硫酸アンモニウムじゃない?」
「ククッ過硫酸はペルオキソ二硫酸、H2S2O8だ」
「わかるか〜!」
「だいぶ分ってたろ!」
「いやでもやっぱ楽しいよセンクー先生の科学教室が」
「……まあ、基礎があるやつとこうやって話せんのは、いいな」
互いに自分の知識のことを「この程度は標準だろ」と考えている理系二人の認識が改まるのは、千空が石化解除した大樹を「頭雑人間」と説明したことにより大樹が起きてからもっと先になるのであった。