9
俺が春に目覚めて夏を過ぎ、秋に突入した頃。俺たちの生活水準は瑠奈のおかげでだいぶ上がっていた。
俺一人では生命維持の基盤を整えるだけでも数か月かかっていただろうことを先に起きてやっていてくれたおかげである。
このゼロから始まるはずだった原始生活で復活早々一汁二菜(米無し)を三食用意したうえで腹を満たせるとは思ってもいなかった。
「なにより……」
遠くの崖の斜面を飛び跳ねるように下る姿を視界に入れつつ考える。何回見ても人外すぎると。
最先端科学でもきっと解明できたかわからないほどの謎エネルギーで活動する彼女を見ながら、彼女がいなかった場合を考えて毎回ぞっとしている。俺は服どころか火を扱うまでにどのくらいかかるだろうか。
彼女が即日で作り上げたツリーハウスは今や電気製品がないだけの過ごしやすい別荘と化していた。彼女の人間離れした膂力と使い勝手の極めて良い念能力の帯のタッグで大抵のことは可能になっていたのである。
俺がこうしてのんびり毛皮にくるまって土器を生成し続けられるのも、彼女が肉・魚・野草・キノコなどバリエーションに富んだ食料を必ず捕ってきてくれるからだ。初めの頃罠もなしにどうやって、と聞くと念能力とやらは生命エネルギーを扱うので、周囲に薄く広げると触覚・視覚と似た感覚器として使える円という技がある、と言っていた。
「知覚したからって素手で何でもかんでも逃がさず捕らえるってのがやべーんだがな」
瑠奈は何てことない風に言っているが、現在彼女の負担があまりにも大きすぎる。そして非力な俺がカバーできることでもない。
さらに念能力は万能ではないというので、毒や病気なんかで普通に命を落とすとも。それに関しては俺も例外ではないのだがそこに怪我を含めないあたり、そういうことである。
彼女がダウンする=大幅な戦力ダウンである。俺一人では賄いえないどころか彼女一人看病して守りきることすら怪しい。
「足りねぇ。マンパワーが、あいつの負担を分担できる奴が」
彼女を失うと考えたとき、デメリットと同時に心に湧いて出た、「瑠奈と笑いあう日々がなくなる」「瑠奈と話せなくなる」などの生命維持に何ら関係ない千空の気持ちの問題にはそっと蓋を閉じておいた。
「……あ? すまねぇがもっぺん言ってくれるか?」
「だから、センクーの友達? 多分そろそろ起きるよ」
夜飯の野鳥の野草焼きと川魚のスープ――どうやって罠も使わず鳥を取ってきてるんだ――を一緒に焚火を囲んで食べているとそういえば、と何気ない会話の一つのように爆弾をぶっこんで来た。
「と、とりあえずなんだ、あのデカブツが起きるって? なんでわかる?」
「石像から少しづつ生命エネルギーが漏れ出してるから。センクーのときもそれで気づいて見てたんだよ」
石の中で細胞に戻って、戻れなかった表面部分が殻になってる説多分当たってると思うんだよね、と汁をすすりながら言う。
己の仮説がおそらく合っている喜びだとか、大樹が目覚めるだろう予告だとかあらゆる感情が膨らんでいく。少し泣きそうな気持になった。
「あ、あとこないだツキノワグマ居たから気を付けてね。小型哺乳類もどんどん減ってきてるし」
「そういや猿ども見ねーな。大抵の人間は襲われたら終わりなんだが……まあ警戒はしとく」
人の友人の復活とクマ出没情報を並べたあたり、本当にただの日常会話の一つだったらしい。半年ほど過ごしてきて、こういうところが気を使いすぎず居心地よく感じる部分だったりする。
食事を終えて土器や木の器を洗い終え――水を飲用以外に使えるのも彼女のおかげだ――ツリーハウスへとともに引きあげる。今では各自の部屋と納屋まで完備された立派な家だ。
しかし、ここに大樹が来るとなると流石に暖を取るの言い訳で傍で眠ることもできなくなるだろう。そう思うと無性に彼女を抱きしめて眠る時間が恋しく思えてきた。
「あ”ー…なんだ、その、お前寝てる間も警戒できるっつってたよな?」
「うん、すぐ起きられるよ。……ふふ、寒くなってきたし今日からまた一緒に寝よっか」
「(熊に怯えてると思ってやがる……そしてそれを気にさせないよう気を使ってやがる……)」
「あっ不満そうな顔だな? 普段働く私へのご褒美でしょうが〜拒否権無いぞ〜」
「ハイハイわかった千空湯たんぽになったるからはよ来い」
「わーい」
にっこり笑って自分の部屋から敷毛皮を取ってきた瑠奈は遠慮なく千空の部屋へと踏み入る。
二人でいる間は惚れた腫れたも何もなかった。というと語弊があるが、第三者として観測するものが居なければこの関係を”普通”と定義して過ごしていられた。
しかし今後それは千空側に自覚をもたらしたこの面倒くさい感情が存在している限り表には出せないのだ。……俺が気持ちを認めてしまったから。
「ほら、千空」
「(こいつ……一緒に寝るときだけちゃんと名前呼びやがるからもう、こいつはよォ……)冷っっっめてぇな足!!」
「冷え性なんだって」
「オラさっさとあったまりやがれ」
「は〜〜ぬくい……」
「(この状況で俺よりデカイ筋肉質 なやつが起きてきたら、)」
辛うじて身長だけは千空の方が20センチほど高いので早々抜かれはしないだろうが、彼女より大きくて体温が高い人間となれば大抵は当てはまりそうな気がする。
そういった存在が出てきたとき、彼女はあっさり乗り換えていくのだろうか?
「(……考えても仕方ねぇしな。こいつの事だ、”寒いし皆でかたまって寝たらよくない?”くらい言いそうだ)」
何をするにしても相手のことが気になって、効率よりも相手の機微を伺うようになる。そしてそれに一喜一憂し始めるのだ。
だから恋愛脳は面倒くさいのだ!!
俺一人では生命維持の基盤を整えるだけでも数か月かかっていただろうことを先に起きてやっていてくれたおかげである。
このゼロから始まるはずだった原始生活で復活早々一汁二菜(米無し)を三食用意したうえで腹を満たせるとは思ってもいなかった。
「なにより……」
遠くの崖の斜面を飛び跳ねるように下る姿を視界に入れつつ考える。何回見ても人外すぎると。
最先端科学でもきっと解明できたかわからないほどの謎エネルギーで活動する彼女を見ながら、彼女がいなかった場合を考えて毎回ぞっとしている。俺は服どころか火を扱うまでにどのくらいかかるだろうか。
彼女が即日で作り上げたツリーハウスは今や電気製品がないだけの過ごしやすい別荘と化していた。彼女の人間離れした膂力と使い勝手の極めて良い念能力の帯のタッグで大抵のことは可能になっていたのである。
俺がこうしてのんびり毛皮にくるまって土器を生成し続けられるのも、彼女が肉・魚・野草・キノコなどバリエーションに富んだ食料を必ず捕ってきてくれるからだ。初めの頃罠もなしにどうやって、と聞くと念能力とやらは生命エネルギーを扱うので、周囲に薄く広げると触覚・視覚と似た感覚器として使える円という技がある、と言っていた。
「知覚したからって素手で何でもかんでも逃がさず捕らえるってのがやべーんだがな」
瑠奈は何てことない風に言っているが、現在彼女の負担があまりにも大きすぎる。そして非力な俺がカバーできることでもない。
さらに念能力は万能ではないというので、毒や病気なんかで普通に命を落とすとも。それに関しては俺も例外ではないのだがそこに怪我を含めないあたり、そういうことである。
彼女がダウンする=大幅な戦力ダウンである。俺一人では賄いえないどころか彼女一人看病して守りきることすら怪しい。
「足りねぇ。マンパワーが、あいつの負担を分担できる奴が」
彼女を失うと考えたとき、デメリットと同時に心に湧いて出た、「瑠奈と笑いあう日々がなくなる」「瑠奈と話せなくなる」などの生命維持に何ら関係ない千空の気持ちの問題にはそっと蓋を閉じておいた。
「……あ? すまねぇがもっぺん言ってくれるか?」
「だから、センクーの友達? 多分そろそろ起きるよ」
夜飯の野鳥の野草焼きと川魚のスープ――どうやって罠も使わず鳥を取ってきてるんだ――を一緒に焚火を囲んで食べているとそういえば、と何気ない会話の一つのように爆弾をぶっこんで来た。
「と、とりあえずなんだ、あのデカブツが起きるって? なんでわかる?」
「石像から少しづつ生命エネルギーが漏れ出してるから。センクーのときもそれで気づいて見てたんだよ」
石の中で細胞に戻って、戻れなかった表面部分が殻になってる説多分当たってると思うんだよね、と汁をすすりながら言う。
己の仮説がおそらく合っている喜びだとか、大樹が目覚めるだろう予告だとかあらゆる感情が膨らんでいく。少し泣きそうな気持になった。
「あ、あとこないだツキノワグマ居たから気を付けてね。小型哺乳類もどんどん減ってきてるし」
「そういや猿ども見ねーな。大抵の人間は襲われたら終わりなんだが……まあ警戒はしとく」
人の友人の復活とクマ出没情報を並べたあたり、本当にただの日常会話の一つだったらしい。半年ほど過ごしてきて、こういうところが気を使いすぎず居心地よく感じる部分だったりする。
食事を終えて土器や木の器を洗い終え――水を飲用以外に使えるのも彼女のおかげだ――ツリーハウスへとともに引きあげる。今では各自の部屋と納屋まで完備された立派な家だ。
しかし、ここに大樹が来るとなると流石に暖を取るの言い訳で傍で眠ることもできなくなるだろう。そう思うと無性に彼女を抱きしめて眠る時間が恋しく思えてきた。
「あ”ー…なんだ、その、お前寝てる間も警戒できるっつってたよな?」
「うん、すぐ起きられるよ。……ふふ、寒くなってきたし今日からまた一緒に寝よっか」
「(熊に怯えてると思ってやがる……そしてそれを気にさせないよう気を使ってやがる……)」
「あっ不満そうな顔だな? 普段働く私へのご褒美でしょうが〜拒否権無いぞ〜」
「ハイハイわかった千空湯たんぽになったるからはよ来い」
「わーい」
にっこり笑って自分の部屋から敷毛皮を取ってきた瑠奈は遠慮なく千空の部屋へと踏み入る。
二人でいる間は惚れた腫れたも何もなかった。というと語弊があるが、第三者として観測するものが居なければこの関係を”普通”と定義して過ごしていられた。
しかし今後それは千空側に自覚をもたらしたこの面倒くさい感情が存在している限り表には出せないのだ。……俺が気持ちを認めてしまったから。
「ほら、千空」
「(こいつ……一緒に寝るときだけちゃんと名前呼びやがるからもう、こいつはよォ……)冷っっっめてぇな足!!」
「冷え性なんだって」
「オラさっさとあったまりやがれ」
「は〜〜ぬくい……」
「(この状況で俺よりデカイ
辛うじて身長だけは千空の方が20センチほど高いので早々抜かれはしないだろうが、彼女より大きくて体温が高い人間となれば大抵は当てはまりそうな気がする。
そういった存在が出てきたとき、彼女はあっさり乗り換えていくのだろうか?
「(……考えても仕方ねぇしな。こいつの事だ、”寒いし皆でかたまって寝たらよくない?”くらい言いそうだ)」
何をするにしても相手のことが気になって、効率よりも相手の機微を伺うようになる。そしてそれに一喜一憂し始めるのだ。
だから恋愛脳は面倒くさいのだ!!