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大樹君が持ち帰ってきた葡萄を醸造し始めて二週間ほど。何とかアルコール発酵にこぎつけたようで、やはり葡萄の発酵しやすさはすごいなと思うばかりである。
既に秋深かった季節は余裕で雪が積もる冬へと移り変わった。

「いやおかしくない? 私寒いの嫌で南下して絶対東北は抜けたのに。体感東京とか関東近辺なのにこの積雪量、おかしい……。まだ南下するしか……?」
「おいおいおい瑠奈待ちやがれ。寒さ如きに負けんじゃねぇ」
「寒いの嫌い……餓死より凍死のが断然イヤ」
「いやわからん。死に方なんてどれも嫌だわ。だーっ、寒い間ずっと俺が湯たんぽになってやっから!」
「……鉄。砂鉄と塩、いける。カイロ作ってくれるなら考える。もしくはストーブ」
「一応可燃性固体だぞ。活性炭用意できねぇんだ、やめろ。そもそも砂鉄だって用意できねーだろ寒さで川に入れねーんだから」

ストーブも同じ理由で今すぐは無理だ、と言われムスッとする。こういう時千空の目が時折なにか、面映ゆそうな、かわいいものを見つめるような表情をすることがあることに気付いた。
……わがまま言われるとグッとくるとかいうタイプだっただろうか。
うーん? とそのまま考えていると「オラ」という掛け声とともに何か皮のようなものをかぶせられる。
頭からかぶらされ、そのまますっぽり穴から頭を出す。長めに作られた外套のようで一応前開きになっていた。冬毛の鹿皮を二枚重ねて作られていて風を通さない。

「あったかいね……?」
「遠出も増えたからな。どうせまたすぐ発つんだろ、凍死されちゃマンパワーが減るだろうが」
「まあ私最大戦力ですし?」
「おー」
「でもその最大戦力、この鹿のこと知らないんだけど。大樹君がとってきたの?」
「……」

ね? と問いかけてもそっぽを向いてだんまりを貫く気らしい。罠を使って仕留めて、解体から皮を鞣して二枚重ねに。その工程を私のために、もしかしたら採集で忙しい大樹君に頼らず一人で。
だって大樹君は何かを攻撃するというのが苦手らしいから。

「とってもうれしい。沢山使わせてもらうね」

慣れない解体と鞣しという力仕事に、きっと傷ついたであろう手を取る。
念の癒合帯で巻いて怪我の治りを早めていると大樹君が端ってこちらにやってきた。

「おーい! ワインができたと思うぞ! ……む! それは瑠奈さんへの贈り物と言って作っていた上着! 完成したんだな!」
「あ”ーっ!! 何で言っちまうかな!」
「なぬ! ダメだったか!? 俺に手伝うなというからてっきり自分の力だけで用意したいのだと、」
「おいデカブツおい……」
「すごいね、全部言っちゃうんだねぇ……」

千空はもはや要らないところまで暴露されつくして赤くなればいいやら青くなればいいやらわからない顔をしていた。
そして彼のこの性質は、近い未来で決定的な情報漏洩を起こす前触れでもあったと、後に知るのである。

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