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想像以上の積雪と極寒を迎えたものの、改良を重ねたツリーハウスと大量の肉などのエネルギー源で冬を耐え忍び迎えた春。
その過程で瑠奈が中・遠距離の採集と狩りを全て担ったおかげで二人の手は研究と家の改築に回れたという実績を盾に、瑠奈がほぼ毎晩千空を湯たんぽとして同衾したことで千空は完璧に瑠奈との共寝に慣れ切っており、以降特に気にすることもなく雪解けを迎えた今も二人で一つの部屋で寝ている。
それを見ていた大樹も初めの方こそニコニコ嬉しそうに見ていたが、春に至り最早これが普通の事であると認識していた。
そうして夜を共にすると会話も生まれ、知らぬ間に千空は彼女の念能力について、瑠奈は彼の科学知識についてその造詣を深いものにしていった。

「…………せめてピペットがあればなあ」
「いやマジでな」

今日も今日とて復活液の調合のためにナイタール液の調合に勤しむ二人を見ていた休憩中の瑠奈が唐突にぽつりと零した。

「器も一定じゃないし根気しかない滴定作業じゃんねコレ……」
「ビーカーとは言わねぇ、全く同一の器がありゃまだ捗るんだが」
「鋳型欲しいけど金属加工っていつになるんだろうね……」
「溶鉱炉までが遠い……瑠奈お前、冬の穴籠りしてる熊を引きずり出せるくらいだからもしかして金属削ったりってできたりするのか?」
「多分できるよ。掘削・変形・切断はね。でも同じ形にいくつも量産は厳しいよ、にんげんだもの……」
「人間は基本機械ナシで金属加工は出来ねぇんだよ」
「瑠奈さんは機械ナシでも切ったり曲げたりできるのか!! 俺も頑張ればできるようになるだろうか!!!」
「曲げるのはできそうだよね〜」

滴定作業は一滴単位の根気作業で冬から春までワンシーズンを消費している。
その間に人間三人を養うため、食料と資源の塊である大型動物が冬眠してしまうので、力業で仕留めたりしていた。
私もたまに滴定作業に回ることもあるが、基本外を飛び回っているため知識はあれど研究にはあまり力になれていない自覚があった。
私も何か力に、と考えていたところ燕の羽根の一つがパキパキと音を立てて石化が解けたのである。
ワッと集まってそれを見た千空が急いで同じ比率で作っていた液を一体の石像にかける。

「本当に戻ったぞ!!」

喜びももちろんあるものの、成功からの安堵からどっと疲れが出て地面に座り込んだ。

「”科学ではわからないこともある”じゃねぇ」
「わからない事象に対して一定のルールを探す地道な努力の積み重ねが、」
「科学って呼ばれてるだけだ!」
「っていうのがセンクーの言う科学だよね」
「おー、わかってるじゃねぇか」
「なるほど!!!!(?)」



そうして復活液完成の宴を開いて保存食の中からもふんだんに材料を使って豪勢な原始料理を楽しんだその日の夜。
そっと隔離しておいた復活液を手に音もなくツリーハウスから飛び降りる。

「どこ行くんだよ」

飛び降りたすぐ傍の柱に千空が肩を預けて立っていた。

「……寝てなかったわけ?」
「おめーが何しようとするか、いつやるか。手に取るように分かるからなァ」
「裏をかいたつもりだったのにな〜」
「ご丁寧に酒まで入れたのに残念だったな」
「未成年が酒強いとは思わないじゃん」

はあ、と溜息を大きく聞こえるようにつく。

「お前だけにやらせるわけないだろうが」
「結果だけ聞いたらいいじゃん? 気分悪くなるかもよ」
「科学の発展に寄与する尊い犠牲に気分悪くなるもクソもあるか。実際見て分かることもあるだろ」
「ま、そうですけども」
「おら。崖沿いだろ、行くぞ」
「行先までバレてら」

横に並ぶのを待たれているのでさっと駆け足で横を歩く。
せっかく生殺与奪に慣れてる経験がある私が思う存分実験してから報告しようと思ったのにな。
気を使ったつもりだったが、それはお互い思考が読みあえる上、その精度が何故か私よりも千空に軍配が上がる彼に通用はしなかったようだ。

「(ま、純粋な科学の徒だし。何よりまず己の目で確かめたいよな)」

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