14
拠点からほど近い崖の近く。崖崩れに巻き込まれたか、はたまた崖の上から落ちてきたのか。石像の飛散具合からして上から落ちたか。
「円で探してみたけど全部は揃わないね……まずは一応くっつけて戻すよね」
そう言ってがさがさと夜の茂みを恐れもなく漁りながら言う彼女に呆れとも尊敬ともつかない感情を抱く。感性がぶっ飛んでいるというより、彼女には恐れる必要がないから恐れていないだけなのだろう。
彼女から聞いた前世だという話。とてつもないファンタジーだが、死後のことを何一つ確定できることが無い現状で――3700年前の最先端科学ですら無理だっただろうが――、彼女の言う技術や並行世界論を否定はできない。まず科学は否定ではなく疑いの学問なのだから。
彼女の言い分からすると、彼女の前世で生きていた世界では念能力という技術が確立されていて、かつ人に伝えることもできる。未だ完全に理解はできていないものの、魂やら命やらをエネルギー論として理解が進んでいることから大分進んだ世界だろうと思っていたが、あちらには飛行機はないという。
「アレか、魔法やらエネルギー技術やらが発展しすぎるとそこで科学技術が停滞するとかいう……」
「また私の前世のこと考えてる?」
「いつも考えてるに決まってるだろ」
「センクー…」
「興味深すぎんだろ」
「もう、こういうときは”トゥンク”っていうまで待ってっていつも言ってる〜」
きゃらきゃら笑う彼女と戯れながら石像をパズルしていくが、致命的欠損があるのに違いはない。これを復活させるとき、足りないパーツはどこまで再現できるのか。もしできるのであれば現代の再生医療なんて言葉では片付けられない。
だから確かめたい。それは本音だ。しかし一瞬の躊躇いが生まれた。科学の発展のための尊い犠牲。そう割り切ってもまだ、己が手にかけることに逡巡があるのだ。
しかし彼女はそれを待ってもくれないようで、ちらりと視線が交差したと思った次の瞬間には復活液を三分の一ほどためらいもなくぶっかけていた。
申し訳程度に寄り添わせた石像がペキペキと殻を割るように剥がれ落ちていく。
「うーん、肉。くっついてないね」
躊躇なく手で触れて断面やら状態を確認していく彼女の傍で手元を見る。復活とともに滴る鮮血と生臭さ。現実味のないヒトの肉塊を前に実感が遠のいている。
「死んでた……にしちゃ鮮血だな、出てくんの」
「砕けてそのまま復活させるとそのまま死ぬのは仮定通りとして……センクーの劣化不再生理論で行くとさ、壊れて日が経つと劣化のためにくっつかない可能性もあるね?」
「……」
試す? という彼女の顔を見れば、とくに何の感情も乗っていないように見えた。復活液を意図的に残してたのだから、さらに実験を重ねるつもりなのは明白だ。自分の顔もそうなっているのだろうか。
返事に詰まっていると、彼女が小さく笑う声が聞こえた。
「ほらね、この世界は道徳観念とか倫理観厳しめだからしんどいと思ったんだよ。今日はやめよやめよ」
「いや、」
「試す時間はいくらでもあるから。ね。気になるなら一人でやらないから。今日はもう帰ろセンクー」
仕方ないよ、普通の高校生だったんでしょ。
そう言って素手で硬いはずの地面をチーズの如くえぐり取って申し訳程度に肉塊にかけると、俺の腰に念の帯を回して立たせ、その場から引き離そうとする彼女は本当に言葉通り気にしていない。どころか、
「……なんか生き生きしてねぇか」
「そりゃあ、謎現象を科学で解明しようとしてるんだもの……しかも私の思いつく方向性で実験しながらね。現代では批難轟々だろうけど」
寝物語に聞いていた話が現実味を帯びて彼女に重なる。倫理観もだいぶ薄弱で、命の価値が軽い……というより弱肉強食が色濃い異世界を生きた彼女。先程の土をかける対応だってきっと、「後は野生動物が分解してくれるだろうけど、センクーがあとから気にするかもしれない」という考えからの行動だろう。
しかしそこに人でなしと謗られるほどの外道さがあるわけでもなく、穏やかで優しい、思いやる心をみせる今俺とともにいる彼女。
その合理性と判断力の鋭さ、そしてあらゆる意味での強さをもつ姿に、生き物としての美しさすら感じている己は現代の感覚からすれば結構やばい沼に沈みかけている気がしていたが、抜け出す気は今のところ起きないでいる。
「円で探してみたけど全部は揃わないね……まずは一応くっつけて戻すよね」
そう言ってがさがさと夜の茂みを恐れもなく漁りながら言う彼女に呆れとも尊敬ともつかない感情を抱く。感性がぶっ飛んでいるというより、彼女には恐れる必要がないから恐れていないだけなのだろう。
彼女から聞いた前世だという話。とてつもないファンタジーだが、死後のことを何一つ確定できることが無い現状で――3700年前の最先端科学ですら無理だっただろうが――、彼女の言う技術や並行世界論を否定はできない。まず科学は否定ではなく疑いの学問なのだから。
彼女の言い分からすると、彼女の前世で生きていた世界では念能力という技術が確立されていて、かつ人に伝えることもできる。未だ完全に理解はできていないものの、魂やら命やらをエネルギー論として理解が進んでいることから大分進んだ世界だろうと思っていたが、あちらには飛行機はないという。
「アレか、魔法やらエネルギー技術やらが発展しすぎるとそこで科学技術が停滞するとかいう……」
「また私の前世のこと考えてる?」
「いつも考えてるに決まってるだろ」
「センクー…」
「興味深すぎんだろ」
「もう、こういうときは”トゥンク”っていうまで待ってっていつも言ってる〜」
きゃらきゃら笑う彼女と戯れながら石像をパズルしていくが、致命的欠損があるのに違いはない。これを復活させるとき、足りないパーツはどこまで再現できるのか。もしできるのであれば現代の再生医療なんて言葉では片付けられない。
だから確かめたい。それは本音だ。しかし一瞬の躊躇いが生まれた。科学の発展のための尊い犠牲。そう割り切ってもまだ、己が手にかけることに逡巡があるのだ。
しかし彼女はそれを待ってもくれないようで、ちらりと視線が交差したと思った次の瞬間には復活液を三分の一ほどためらいもなくぶっかけていた。
申し訳程度に寄り添わせた石像がペキペキと殻を割るように剥がれ落ちていく。
「うーん、肉。くっついてないね」
躊躇なく手で触れて断面やら状態を確認していく彼女の傍で手元を見る。復活とともに滴る鮮血と生臭さ。現実味のないヒトの肉塊を前に実感が遠のいている。
「死んでた……にしちゃ鮮血だな、出てくんの」
「砕けてそのまま復活させるとそのまま死ぬのは仮定通りとして……センクーの劣化不再生理論で行くとさ、壊れて日が経つと劣化のためにくっつかない可能性もあるね?」
「……」
試す? という彼女の顔を見れば、とくに何の感情も乗っていないように見えた。復活液を意図的に残してたのだから、さらに実験を重ねるつもりなのは明白だ。自分の顔もそうなっているのだろうか。
返事に詰まっていると、彼女が小さく笑う声が聞こえた。
「ほらね、この世界は道徳観念とか倫理観厳しめだからしんどいと思ったんだよ。今日はやめよやめよ」
「いや、」
「試す時間はいくらでもあるから。ね。気になるなら一人でやらないから。今日はもう帰ろセンクー」
仕方ないよ、普通の高校生だったんでしょ。
そう言って素手で硬いはずの地面をチーズの如くえぐり取って申し訳程度に肉塊にかけると、俺の腰に念の帯を回して立たせ、その場から引き離そうとする彼女は本当に言葉通り気にしていない。どころか、
「……なんか生き生きしてねぇか」
「そりゃあ、謎現象を科学で解明しようとしてるんだもの……しかも私の思いつく方向性で実験しながらね。現代では批難轟々だろうけど」
寝物語に聞いていた話が現実味を帯びて彼女に重なる。倫理観もだいぶ薄弱で、命の価値が軽い……というより弱肉強食が色濃い異世界を生きた彼女。先程の土をかける対応だってきっと、「後は野生動物が分解してくれるだろうけど、センクーがあとから気にするかもしれない」という考えからの行動だろう。
しかしそこに人でなしと謗られるほどの外道さがあるわけでもなく、穏やかで優しい、思いやる心をみせる今俺とともにいる彼女。
その合理性と判断力の鋭さ、そしてあらゆる意味での強さをもつ姿に、生き物としての美しさすら感じている己は現代の感覚からすれば結構やばい沼に沈みかけている気がしていたが、抜け出す気は今のところ起きないでいる。