一周回った出来損ない
ぴしっと、酷く硬質で乾いた音と共に目の前の刀身に罅が入る。
それに続き次々に至る所に同じものが生じる。そして、それは留ようもなく刀身全体に及ぶ。
「……っ!? そんな、ありえないぞ、こんな」
「いくら力が強いと言っても、この依代は、」
周りを取り囲んでいた者達に動揺が走り、混乱と焦りが人の輪の中ではじけた。
私は一人その輪の中心で、たった今神を降ろす間もなく砕け散った依代の刀の破片の中に跪いたまま、手のひらの中にその欠片を握りこんで小さく呟く。
「ごめんね」
「はー……これはまた、盛大に汚れて……」
とある本丸のある時空の座標の近く。
敷地の付近までやってきたが、その本丸と言わず門さえ見る前から淀みやら穢れやらが感じられる。遠目に視る必要もない。
一体何があってこんな事になったのか、時の政府から遣わされたのであるからしてもちろん大まかに把握はしている。しかしその全貌は知り得ない。とりあえず聞いていたよりも酷い荒れ具合である。進んで自分から足を踏み入れたくはないが、役目は役目であるので仕方ない。
時の政府が執り行っている審神者になる為にパスしなければならない最後の試験……つまり鍛刀と顕現。そのうちの顕現について史上類を見ない失敗をしてからどのくらい経ったか。私は辛うじて無名の脇差一つを身を守る武器として正真正銘一人で"こんな"場所へとやってきた。
「期待のエースが今やこの体たらく……いや、力が強いから生き残れてるのか」
ため息をつく。
見習いの時から類稀な霊力の高さから期待を寄せられていた。しかし私のその高すぎる霊力が仇となり審神者として致命的な欠点となってしまった。あの失敗から立場は転じて一気に政府の厄介者である。
力がなければ、また現世に戻ることも出来ただろうが、それも詮無いこと。
「役目は、果たさねばね」
覚悟を決めてから大分近くまで歩いてきた。
門の前、それも境界代わりの小さな川にかかる朱塗りの小橋の向こう側に並び立つ、二つの人影がはっきりと視認できた。
こちらも改めて視る必要もないほど気配が人のそれとはかけ離れているため、刀剣の付喪神であると判断できた。
身につけた緋袴が風に吹かれるままに遊ぶので歩みを緩く邪魔するが、そのまま無視して橋の手前まで来て足を止める。
「何用か」
ひたりとこちらを鋭く見つめる紺の狩衣を纏う男が雅ながらも乱暴に言葉を放った。
問いかけるよりも叩きつけるという表現が適切な言い方だった。
ちらりと、隣に立つもう一人の白い付喪神を見るも、どうやら彼は黙ったまま何も言う気配はない。
「時の政府から遣わされ参りました。この本丸を浄化いたします」
「必要ない」
ぴしゃりと返され思わず溜息をつく。付喪神とはいえ神様の面前である。気をつけなければ……。
想定の範囲内とはいえ、穏便に済むならそれに越したことはないのだけれど、そう簡単には行かなさそうである。
「……そうは言われましても、私としても負った役目は果たさねばなりませんから」
「俺達と敵対してもか?」
黙っていた白い神様は何の感慨もないように問いかけるその手は、油断なく己の依代である刀にあてがわれている。
二人の奥に見える門は開かれていた。中までは流石に見通せないが、造りは確認した資料のとおりだろう。そうであれ。
「そうですね」
私の肯定の意と共に二振りの鯉口を切る音が聞こえる。
頑張っても、この二人を正面から振り切って門を突破するのは難しいだろう。それならば。
私も彼らにならって脇差に手をかける。
「たとえ敵対しても。役目ですから」
それに続き次々に至る所に同じものが生じる。そして、それは留ようもなく刀身全体に及ぶ。
「……っ!? そんな、ありえないぞ、こんな」
「いくら力が強いと言っても、この依代は、」
周りを取り囲んでいた者達に動揺が走り、混乱と焦りが人の輪の中ではじけた。
私は一人その輪の中心で、たった今神を降ろす間もなく砕け散った依代の刀の破片の中に跪いたまま、手のひらの中にその欠片を握りこんで小さく呟く。
「ごめんね」
「はー……これはまた、盛大に汚れて……」
とある本丸のある時空の座標の近く。
敷地の付近までやってきたが、その本丸と言わず門さえ見る前から淀みやら穢れやらが感じられる。遠目に視る必要もない。
一体何があってこんな事になったのか、時の政府から遣わされたのであるからしてもちろん大まかに把握はしている。しかしその全貌は知り得ない。とりあえず聞いていたよりも酷い荒れ具合である。進んで自分から足を踏み入れたくはないが、役目は役目であるので仕方ない。
時の政府が執り行っている審神者になる為にパスしなければならない最後の試験……つまり鍛刀と顕現。そのうちの顕現について史上類を見ない失敗をしてからどのくらい経ったか。私は辛うじて無名の脇差一つを身を守る武器として正真正銘一人で"こんな"場所へとやってきた。
「期待のエースが今やこの体たらく……いや、力が強いから生き残れてるのか」
ため息をつく。
見習いの時から類稀な霊力の高さから期待を寄せられていた。しかし私のその高すぎる霊力が仇となり審神者として致命的な欠点となってしまった。あの失敗から立場は転じて一気に政府の厄介者である。
力がなければ、また現世に戻ることも出来ただろうが、それも詮無いこと。
「役目は、果たさねばね」
覚悟を決めてから大分近くまで歩いてきた。
門の前、それも境界代わりの小さな川にかかる朱塗りの小橋の向こう側に並び立つ、二つの人影がはっきりと視認できた。
こちらも改めて視る必要もないほど気配が人のそれとはかけ離れているため、刀剣の付喪神であると判断できた。
身につけた緋袴が風に吹かれるままに遊ぶので歩みを緩く邪魔するが、そのまま無視して橋の手前まで来て足を止める。
「何用か」
ひたりとこちらを鋭く見つめる紺の狩衣を纏う男が雅ながらも乱暴に言葉を放った。
問いかけるよりも叩きつけるという表現が適切な言い方だった。
ちらりと、隣に立つもう一人の白い付喪神を見るも、どうやら彼は黙ったまま何も言う気配はない。
「時の政府から遣わされ参りました。この本丸を浄化いたします」
「必要ない」
ぴしゃりと返され思わず溜息をつく。付喪神とはいえ神様の面前である。気をつけなければ……。
想定の範囲内とはいえ、穏便に済むならそれに越したことはないのだけれど、そう簡単には行かなさそうである。
「……そうは言われましても、私としても負った役目は果たさねばなりませんから」
「俺達と敵対してもか?」
黙っていた白い神様は何の感慨もないように問いかけるその手は、油断なく己の依代である刀にあてがわれている。
二人の奥に見える門は開かれていた。中までは流石に見通せないが、造りは確認した資料のとおりだろう。そうであれ。
「そうですね」
私の肯定の意と共に二振りの鯉口を切る音が聞こえる。
頑張っても、この二人を正面から振り切って門を突破するのは難しいだろう。それならば。
私も彼らにならって脇差に手をかける。
「たとえ敵対しても。役目ですから」