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戦闘訓練を終えて教室に戻る。授業は終わったため帰ろうと荷物をまとめていると、授業の振り返りや反省会をしないかと誘われた。

「今日はこの後用事があるの、ごめんなさいね。また誘って?」
「なら仕方ねぇ! また明日な!」

赤い髪の、硬化の個性の男子生徒は気を悪くした様子もなく手を振って見送ってくれた。実際には用事などはないのだが、今回の戦闘訓練の内容に省みるべき点は無かったので波風立てずにお暇したというわけだ。正確に言うならば、ここで話すべき反省点これ以上私が得られるものはない。
教室を出るときに後ろで同じく声を掛けられているのを聞いたので、彼は本当に熱心なのねと思いつつ廊下を過ぎ校舎から出ようとした。

「待てや」

名前すら呼ばれずに出された命令形の言葉だったが、これは明らかに私に向けられたものであると確信してしまったので立ち止まって振り返る。
後ろには不機嫌そうと形容すればいいのか、気まずそうとも言える複雑な表情の爆豪が立っていた。いつも以上に凶悪な目つきで私をとらえたまま。

「何かしら」
「目に入らねぇンかよ」
「……?」
「俺の戦闘! モニターで見てただろうが。それでも何もねぇンか。俺に。”今回自分に反省すべき点は無いです、あとは全部自分の中の問題です”っつー顔して帰ンのか」
「そうよ」
「な、」

あんな、精神的に打ちのめされていた様子だったのによく見ていること。
そう思いながら言い当てられたことが事実だったので間髪なく肯定を返すと、逆に彼の方が面食らっていた。否定してほしかったのかしら。

「……っ、そんッなに! とるに足りなかったかよ。テメェをなめてかかってた氷野郎より! 俺は! 期待はずれだったンかよ!!」
「それ以前の問題だと思ったわ」

直接対峙したわけでもない私に、何をそんなに引っかかることがあるのかわからないものの冷静に答えを返した。しかしその答えをすぐには呑み込めないようで激情を爆発させながらも疑問を見せていた。

「戦闘センスの有無に差はあれど、技術面も戦術面もこれから伸ばしていくことですからそこは気にしてないの。貴方も、私もね。戦闘センスに関しては人並み以上だったと思うわ。でも貴方は負けた。感情に振り回されていたから敗北を喫したのよ、貴方は」
「……」
「別に、良いと思うのよ私怨を持つ分には。恨みも妬みも嫉みも。復讐心だってそう」
「誰がクソナードを妬むか!」
「でも吞まれてしまったでしょう? そこから湧き出した感情に。怒りだろうと恨みだろうと、呑まれてしまうようならそこまでだわ」

途中でガァッと食いついてきた爆豪も、私がすぐに差し込んだ言葉に押し黙った。自覚があるようで何よりだわ。

「どんな感情であれ、吞まれて振り回されるのであればその身に不相応なのよ。そんな感情、捨てておしまいなさいな」
「てめぇに、……。」
「ええ、わかりません。言葉にする前に思い直してくださってありがとう、わざと煽ってごめんなさいね。でも私はそう考えているわ」

あら、と思った。彼が激昂するかと思って言い放った言葉に、目の色を変えて食らいついたと思えばそれはすぐ鳴りを潜めた。考え直したとも言える。
「テメェに何がわかる」と口にしようとして、本当に私には何もわからないのだと思い直したのだ。彼から聞かれたことに答えて、求められたので私の考えを述べただけ。そう気づいたから言葉を止めた。それも、おそらく私が「感情に呑まれるなんて論外」だと伝えたから。
やっぱり身体だけじゃなく精神的にもタフなのだわ! と彼を見て勝手にかけていた期待に違わなかったと嬉しくなった。

「……お前のその言い方じゃあ制御できりゃいいンかよ」
「もちろん。特に強い負の感情は大きなモチベーションになるでしょう? お得じゃない」
「はあ?」
「ずっと大きな感情を抱き続けるのって消耗するじゃない。そのエネルギーをずっと供給し続けてくれるのよ、ご苦労様なことに」

絶対に達成するっていう目的意識も付くし、努力するためのエネルギーにもなるなんて。
まあ、それをモチベーションに変換する前に大きなストレスや傷になるけれど。
そうやって負った傷が大きければ大きいほど比例するように強い理由になり得るのだと思っている。彼の傷つけられたプライド然り、私の過去然り。
見れば苦虫を噛んでしまったような表情で私の言葉を飲み込もうとしている彼に笑みがこぼれた。

「聞かれたから答えた相手に罵倒を返さずに止めたり、受け止めようとしていたり。感情の制御もやってやれないことはないのでしょうし。冷静な爆豪君とは一度手合わせしてみたいわ」
「大体冷静だわ。……最初思った通りクソいい性格してたじゃねーか猫かぶり女。絶対負かす」
「あら心外。別に隠していないわ、周りが気付かないだけよ。じゃあね」

ファーストインプレッションでお互いそこそこ理解されていたことに驚きはしたものの、お互い馬鹿ではないので不思議ではなかった。
でも猫かぶり女呼びは頂けないのでそもそも本性を隠していないと伝えると言葉なしに「そういうトコだろうが」と顔で示され、その顔がなんとも言えず面白かったので笑いながらまた明日ね、と歩き出した。

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