22

上がってしまった黒煙をさっさと消すべく消火活動を始めようとしたとき、杠が何かを見つけた。

「……狼煙?」
「狼煙――」

呆然とする千空と私の後ろで杠がハッとしたように慌てる。

「司くん!?」
「いや、逆方向だ。それにわざわざ司が俺たちに居場所を知らせるはずがねぇ」

まあ、目の前で威圧するように石像を砕きながら登場する姿を見た私からすれば、”もうここまで迫っているぞ”という警告と、こちらの焦りを誘発させるためにこういうことをする人物だと言われればそうとも思えたが、逆方向から狼煙を上げる意味はほぼないので黙っておいた。

「火山の噴火にしてはタイミングも位置も違和感がある。ということは、」
「ああ、そそるぜこれは……このストーンワールドに俺らの他に誰かがいる!」

他に目覚めたであろう人類が居たかもしれない。もしくは石化以降にどうやってか生まれた人類、その可能性。それらを見た千空が一体何を思うのか。そしてどういった行動に出て、その結果どうなる確率が高いのか。
ざっと計算した私は、正直科学の発展や人類史の復興ははっきり言ってどうでもよい。私は私の興味が満たされればそれでよいのだ。しかしそうではない人間がいる。そして彼ならばきっとここで狼煙を上げる。自分たち以外の人類に接触するために。
しかしそれではきっと、危険人物である司に見つかりに行くようなものである。そして彼はそれを厭うことはないのだとも知っている。

「どうする!? 消すのか!?」
「狼煙を、上げ……」
「消していいよ。私が急行して様子を見に行ってもし人がいれば接触してくる。だから今から急いで狼煙を消して。で、さっさと移動。あとで合流するから」
「……あ、ああ。無理だけはすんな」
「こっちのセリフなんだけど」

私はこの時の千空の表情を見たことがあった。前世で己の死期を悟り、それでもなお突き進まなければならない時の命の終わりを予感している人間の顔。
私にしてみれば害してくる人間は反撃して黙らせればいいし、命を狙ってくる輩は相応にその命を刈り取って分からせてやればいい。今生ではそうもいかないけれどストーンワールドでは法も倫理もないのだから気にしなくていい。
けれど、千空はきっと私とは違う。反撃するだけの力がないことは置いておいても、誰の命も奪うことはしないし、司に迫られたとしても科学を捨てることもない。
だから私はここで動くことにした。早々に黒煙を消火して司に見つかる前に移動し、私が単独行動で正体不明の狼煙の正体を確かめてから合流。それでいいはずだ。千空に命を天秤にかけるような真似はさせない。

消火作業を任せて私は早速山を駆け降りる。走りながら範囲を最大射程の半分を維持しつつ前方に伸ばしていく。この方法で進めば最速で狼煙の主を補足できるはず。


私のこの行動と判断が全て裏目に出たのだとわかるのはそのあといくらも経たないうちだった。

HOME