2話
とりあえず、目下の目標は目の前の門を突破し中の屋敷に突入すること。
まず報告によればこの本丸に残る刀剣はあと数振りだという。ならば、ここにいる二振り以上にやっかいな刀剣は中に居ないと考えていい。
打刀以下はまず押し負けることはないし、家屋の中なら太刀以上は本領発揮できない。
だから、ここに構える二振りの壁をなんとかすればいけるはずだ。
「恨むなよ、忠告はしたぜ」
「ふん」
すらりと己を抜き放ち、橋の両端で私があちら側へ行くのを待っている。
そう幅のある橋でもなく、八つ裂きは待ったなしな感じである。
「大丈夫ですよ、互いに切り結ぶ同士恨みっこなしです」
自らの腰に差す脇差に手を伸ばし、橋に足をかけて鯉口を切る。
そのまま数歩の距離を大股で一気に詰める。
あちらもすぐさま反応し刀を振り切る。三日月宗近は下方から手首を返した切り上げ、鶴丸国永は膝下を狙った切り払い。どちらも胴と足をもっていこうとする容赦のない攻撃である。
走る勢いのまま跳び上がり、斬撃の合間をくぐり抜ける。そのまま地に手をつき腰を軸にして足を振り切る。……手応えあり。
すぐに追撃しようと振り向いただろう体勢に蹴りが入り、二人の上体がぶれる。特に刀を上に振り上げていた三日月は少し先まで突き飛ばされたように崩れた。
鶴丸は何とか体勢は保ったまま、足で踏ん張りたたらを踏むのみにとどまった。
が、そのせいで私は鶴丸の懐にいると言っても過言ではない近さにいる。
鶴丸が目を見開く。この距離で脇差を振り抜かれれば受肉している身では流石にひとたまりもない。
しかし私は脇差に手を伸ばすことなく、目の前にある白い男の鳩尾に掌底を叩き込む。鶴丸は後ろへ数歩引いて腹を抑えながら大きくむせこんでいる。
三日月が体勢を立て直しつつこちらの様子を見るように睨みつけている。
私自身が屋敷側に立ち、彼が飛びかかってこない今が機である。
そう判断するや踵を返し屋敷の方へと駆け出す。とにかく屋敷に入ってしまえば対策はまだある。
振り返らずとも、彼らがこちらを追ってきていないのがわかった。
「不気味なほど誰の影もないな……」
屋敷は門と比べる必要もないほど荒れていた。荒れて、と言ったらいいのか朽ちて、と言ったらいいのかわからない具合である。
政府からの情報では、まだあと数振りはいるはずなので恐らくどこかに潜んでこちらを伺っていると見ていい。
審神者は既に音信不通から二週間以上が経過しているらしいので、生存はまあ……この惨状から見ても望むべくもない。
とりあえず本命の本丸浄化を果たすためにも、まず本丸自体に私の結界(のようなもの)をはらなくてはならない。
結界内の浄化で対象になるのは所謂穢れと呼ばれる霊的な汚れのみである。この本丸にはもちろん遺体やら血痕やら砂塵やらが溜まっているだろうが、私に課せられたのは穢れの浄化のみである。ほかはそれぞれの担当が綺麗にしてくれる。はずだ。そこまでは業務範囲外だ。
「この本丸は正方形だから、四隅か」
結界を張るにも様々なやり方があるが、術者に一番負担をかけず、また資金面でも霊力面でも低コストで展開する方法の一つが、それぞれある場の末端に術具や呪具を設置し、それを起動させる方法である。
「さて、どこでもいいからまず隅を見つけないと」
とにかく闇雲に部屋をあさりまわったり、変にどこかの部屋に入っていくよりはこのまま外に面する廊下を歩き続ければ、どこかで角に当たるはずである。
今の所何の気配も無い以上は奇襲や罠も気をつけて進むしかない。あと問題は、
「ここどのへんだ……?」
自分が結構な方向音痴であることくらいである。