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「あら……”今日は何かあっても余計な抵抗をするな”?」

朝一番に来た連絡が不穏すぎて心から笑ってしまった。こんな内容、娘に叛逆の意思があると思っていないからこそ送ってくるのだろうけれど。
くすくす笑いながらバックアップを取り返信をした後、流れるように爆豪君へ連絡を入れる。かなり早い時間であるにもかかわらずすぐに既読が付き赤いスマートフォンが震え始める。

「遅ェ」
「ごめんなさい、通話なんてほとんどしないものだから手間取ったわ」
「で何だよさっきのは」
「今日、おそらくカリキュラム中に何かあるわ」
「またオトーサマから連絡があったのかよ」

すぐに状況を掴んだ彼に今朝のメッセージを彼のトークに打ちこんで見せる。送ってすぐ「スクショで見せろや」と注文が入るも、スクショが分からず聞き返すと撤回された。そのまま「父からのメール内容よ」といえば「家族連絡でメール使ってんのかよ……」と少し引いた様子だった。実父と仲良くチャットアプリでやり取りするとでも?

「”抵抗はするな”ってことは制圧・拘束される可能性があるっつーことだろ。テロでも起こす気かよ」
「可能性はあるわ。先日の件、セキュリティ情報を盗るよう指示があったのよ。そして文面から見て奇襲の類だと思うの。きっと今日の為の騒動だったのかもしれないわ」

しばらく無言で考え込む時間が流れたが、それもすぐに向こうから「はよ登校しろ。続きは現物見てからだ」と促されて終わった。





「これがどんだけの規模かは知らねぇが計画的犯行だろ。事前に止められねぇんか」
「それができれば苦労しないわ。きっと喜んで協力しているのはごく一部よ。あとは私を含めて恫喝と脅迫で統括されているだけだとみているわ。けれど、その非協力的な人々がどうしてリークしたり離反できないのか。強力な監視と心理系・精神感応系の強い個性持ちがいるのよ。離反を考えでもすれば即刻口を封じられておしまい」
「お前がそれに気づいたうえで活動出来てんのは……」
「元々の個性のおかげね。向こうは知らないでしょうけど反射の個性で私に精神感応の個性が届くことが無いから。電話でしか話したことが無いし」

はー、と教室に響くような大きな溜め息を吐く爆豪君に苦笑する。きっと今回防いだとしても抜本的解決ではなく、私の言う黒幕はのうのうとまた別の事件を起こすであろうことに気付いたのだろう、やはり聡明だわ。手詰まりにも感じるようなその感覚は私が今まで十数年間感じて来たものだ。

「……色々してしまったことを後悔しまして?」
「んなわけあるかボケ。この後の動き方が知ってるのと知らねぇのとじゃ変わるだろうが。これからも情報を寄こせや」
「今回私に詳細が降りてこないのはきっとスマホの件で少々信頼を失ってしまったのだと思うわ。仕方のないことだけれど」
「抵抗しなきゃ手を出さねぇってことだろ。んなら、」
「あれは十中八九父の指示よ。もちろん私が娘として大切にされてるわけでもないわ。例のあの人は私なんて捨て駒に等しいし、父は次世代の後継機にたる存在が重要なのよ。死なれちゃこれまで築いてきたものがパアですもの」

気まずそうな、意外なことに気を使っているような微妙な表情をしていたのでつい吹き出すと、途端に目を吊り上げてしまった。

「貴方がそんな顔する必要はないのよ。親の愛情を受けてないだとか、可哀そうな子だとか言うわけでもない。私は彼らを必要としていないんだもの」
「おまえ、」

爆豪君が何かを言い終わる前に教室の扉が開く。そこには”おめでたカラーの頭髪の彼”が立っており、私たち二人を見て動きを止めた。
舌打ちをして自分の席に戻っていく爆豪君を見送っていると紅白頭の彼が前方の自分の席ではなくこちらに歩いてきていた。

「月城、だよな。お前んちデカい病院だったりするか?」
「……ええと、わたくしの親は大きな病院の医師ですし、経営もしておりますけれど。家は病院ではなく普通の家に住んでおります」
「そうか。お前は家業を継げとか言われねぇのか?」
「言われておりますよ。親には医学校へ進むよう言われましたし。先にヒーロー免許を取得するためにここにおりますの」
「……そうか」

にこ、と笑みを浮かべた裏で最大の警戒をしつつ、当たり障りない返答を返していく。何を意図した質問だろうか。このタイミングで。信頼は少々失ってはいてもそこまで疑われるほどではないと考えていたのに。甘かったかもしれない。
ピリッと思考を締め直したところで彼は席へと戻っていく。ああ、そうだわ。

「ねえ、貴方の名前を聞いてもいいかしら? ごめんなさい、人の名前を覚えるのが苦手で」
「いや。構わねぇよ。轟焦凍だ」
「轟さん。わたくしはご存知だったようですが月城瑠奈です」
「……兄弟はいないのか?」
「……? ええ、生まれてこの方ずっと一人っ子ですけれど……」
「そうか」

謎の会話に気が抜けかけたが、思考を回し続ける。とはいえ、最早彼が一体何を意図していたのかは全く分かりかねた。
ちらと視線をずらすと背を向けて席に着いた轟君の後方から凄い形相でこちらを睨む爆豪君と目が合って頑張って吹き出すのをこらえた。

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