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多勢無勢の状況のただ中に降りて行った相澤先生の戦いを見ながら、近くに居た爆豪君に問いかける。

「どうしてわざわざ弱点や隙を話しながら戦っているのかしら。暴露すれば能力が上昇でもするのかしら?」
「……んなわけねェ。おら、いくぞ」

恐らく血の気が一気に引いていたであろう顔を見て、わずかに震えていた手を引いた彼にはバレてしまったかもしれない。あの手を装着した気味の悪い敵。私は彼を知っている。
しかし次を考える暇もなく隣から飛び込んできたお気楽な言葉に思わず足を止めそうになる。

「すごい……! 多対一こそ先生の得意分野だったんだ!」
「……そんなはずがないでしょうに。彼、楽観的すぎないかしら? 大丈夫?」
「デクの話はすんな。イラつく」
「私も何となくイラつく理由が見えてきてしまったわ……」

あの状態を見て、圧倒的有利に見えているのかしら。だとすれば目が節穴過ぎる。
最優先は一刻も早くこの場から避難して足手まといを減らし、早急に増援を呼ぶことである。

「そうはさせませんよ」

黒い靄のような敵が生徒を包囲する。それはそうだろう、こちらの最優先事項を潰すことが手早く有利に立ち回る方法なのだから。
「平和の象徴を殺害する」という今回の目的をぺらぺらと話してくれるので私としてはありがたい情報をもたらしてくれつつ、自分の役目が「生徒を散らして嬲り、殺す事」であるという。

「ああ、だから……」

抵抗するなと。あのメール指示の意味を理解しながらさてどうするかと考えていると、隣居た爆豪君が真っ先に飛び出していった。
硬化と爆破でダメージを与えようとしたようだが、実体がないのかダメージを受けた様子は見られない。どころか、

「だめだ! どきなさい二人とも!」

後ろからブラックホールの個性を展開しようとしていた13号先生と競合してしまっていた。ダメージもなく拘束もない敵に、自由に動けてしまう隙を与えてしまっていた。



「……ここは、ん。私とは相性が悪いわね」

一面の銀世界。雪に埋もれたこの場所は、言うなれば雪崩ゾーンだろうか。敵の姿がちらほら見えるが多くはない。だからなのかこちらも私一人だけがここに転送されてしまったらしい。

「やっと来たぜぇ〜!」
「さっさとヤッてもっと生徒がたくさんいるとこに行こうぜ」
「あら……私をご存知じゃない? 聞く耳もなさそうね」

抵抗しなければ襲われることはない、と解釈していたが、どうやらそうでもないらしい。
なら、こんな相性の悪い場所で聞く耳持たずな奴らに襲われたとあっては。

「抵抗したとしても大目に見てもらえそうね?」

ニィ、と口端が持ち上がっていく。今からここは雪に閉ざされた私の反射の個性の実験場。
相手がバールのようなものを手に、かんじきを装備した足で歩いて近づいてくる。どうやら個性は私にかけるタイプではないようで、初っ端は物理攻撃の反射の訓練になりそうだ。
二人がかりで長物を振り上げてきた。先ほどの動揺とは違う純粋に寒さで震える手をかざし、庇うような動作に相手の目が弓なりに歪む。

「なッ!?」

私の手がかざされた空間から不自然に跳ね返ったバールは、そのままの勢いで相手の元へ帰っていく。特に弾くときに音がするわけでもなく、バリアのようなものが見えるわけでもないようだ。いままで監視にすら見つかってはならないからと意識的に反射の個性を使うのは自身の体内で完結させていたけれど、外に出して使ってみてもある程度は問題のない能力かもしれない。
それに物理攻撃まで対応可能な反射であることが証明されたのだ。それを踏まえてこの場所で試したいこと。
急激に体感温度が下がっていくのが分かったのだろう。異変を感じた数人がうろたえていた。装備を整えてきているので、こちらの設備情報が筒抜けなのは想定済みだったが、では想定以上のマイナス気温には対処できるかしら?
反射の個性を麻酔散布の要領で自分を含めた周囲に張り巡らせる。反射対象はそこら中に積もった雪の冷たさ。冷凍庫以上に急速に冷やされていく空間に、敵の髪やまつげが凍り付いていくのが見て取れた。もちろん己の周囲もろともの急速冷却だが、自分は体内で熱を反射させ続けることで熱エネルギーを確保している。

「さ、今回の目標……平和の象徴抹殺が可能だと、貴方たちが思えた根拠は何だったのかしら?」

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