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私はとある少女を半年ほど観察している。
目の前を緑谷少年とともに歩いていく彼女は、一見どこにでもいる中学生の少女だ。
そんな少女をこっそり観察している私はもういい年を過ぎたおじさんなのだけれど、決していかがわしい理由などはない。これまでナンバーワンヒーローとして活動してきたオールマイトの名に懸けて。
今の私はトゥルーフォーム状態でやせ細った通行人Aだ。誰もオールマイトであるとは気が付かない。しかし第一線で戦ってきた己の勘が告げているのだ。前を進む少女がこちらに感付いていると。気付いていて知らぬ顔をして歩いているのだと。

「(それなりに距離を取っているし、彼女は一度も後ろを振り返ってもいない。仮に気配を察知できたとして、誰なのかはわかっていないはず。だ、が)」

その考えに自信が持てないのはひとえに緑谷少年から伝え聞く月城少女の話と、出会った瞬間から理想状態以上に仕上げられていた緑谷少年自身の身体を見たからであった。
ヘドロ敵を追っていた私は、そのヘドロ敵に絡まれていた少年を助けようとマンホール内から飛び出した。
はいいものの、緑谷少年は全くその敵相手に力負けしていないかった。どころか敵を傷つけないように抑え込む方に意識を割くほど余裕があったようで、見た目によらないそのフィジカルに私は密かに驚愕した。そして私のファンであると嬉しそうにサインを見る彼から驚くべきことに彼が無個性であると聞く。そこで私はワンフォーオールを託すなら彼以外にいないと思った。

「え? ぼ、ぼぼ僕ですか!? いやいやいや僕なんて恐れ多いというか、その、僕より相応しい人が絶対いるっていうか、僕の師匠が一番強いんで! 僕じゃないと思います!」

どもりつつもきっぱりと辞退した彼に呆気にとられる。私は彼のその謙虚さも相応しいと思えるのだけれど、どうも彼の言う”自分以上にヒーローに適した存在”が彼に継承を辞退させているらしい。
そうなれば私の目でその人物を見極めてやろうと聞きだしてみると、どうやら師匠とは言っても同い年の女の子だという。どういうことだろう。
これ以上に百聞は一見に如かずなこともないと早速その月城少女を探し出し観察する運びとなったのである。
しかし見れば見るほど普通の年相応の少女であった。放課後に同年代の少年二人に筋トレやら体の使い方、戦闘方法のレクチャーをしていた。子供のおままごとだというには目を見張るほどの技術を持つのがわかり、一気に疑念を持った。彼女の技術の出どころはどこだ?

数日後、彼女の身辺をさらってみたもののオールフォーワンとの繋がりもなく、普通の一般家庭であった。ますます疑いの芽が育つ。あの戦い方は”慣れた者”特有のそれだった。一体どこでその技術を?
それからしばらくして、連絡先を交換していた緑谷少年から能力の継承について声をかけて来た。

「あの、前に僕に勧めてくれた能力の継承の話、まだ有効だったら詳しく聞いても良いですか……?」
「あ、ああ、それはもちろん。しかしどうして気が変わったのかい?」
「瑠奈ちゃん……あの、僕の師匠に言われたことがあって」
「月城少女か! 何と言っていたんだい?」

緑谷少年の口から彼女の名前が出たことで大きく反応してしまった。それにしても緑谷少年の意思決定に深く関わるほど影響力を持つということも分かりさらに謎と疑念が深まる。
緑谷少年曰く、彼女に”今すぐ圧倒的なヒーローになれる力をもらえたらどうする?”と聞いたらしい。彼女ならばその力を正しく使うだろうし、使えると信じていて好意的に返答したならば私に紹介し相談しようと思っていたとのことだ。
能力について軽く口にしてはいけないことを再度釘を刺して、彼女がどう答えたのかを促す。

「”力……? 人からもらうの? 要らないかな!”って言ってました。もう二つも能力あるし、沢山あっても使い切れないからって」
「ふたつ……? 彼女、個性二個持ちなのかい? 届け出はなかったはずだが……」
「アッ、ちが! 個性は一つで! 彼女、小さいときからずっと鍛えてて、それで強いんです。僕、無個性だからその強さに憧れて修行を付けてもらってたんです」

あわあわと説明する緑谷少年の話を聞くに、彼女は”メモリ論”なる人が持てる能力の上限や枠があるという考え方をするのだという。
それに照らし合わせて考えると、彼女はもうフィジカルの修行で一つ強さを持ち、さらに個性を持っているのでこれ以上はもういらないという。

「”不思議なことにね。過ぎた力をもつと人という生き物はどうしてか破滅に向かおうとするのよ。だから、私は要らない”って」
「ほう……。それを聞いて、どうして君は私の話を改めて聞こうと思ったんだい?」
「瑠奈ちゃん、昔から一度も僕が無個性だってことを笑わないでくれて、ヒーローになるって夢を現実の目標にまで引き上げてくれたんです。そんな彼女が、この個性飽和時代に僕に個性が無いことに意味があるなら、貰い受ける空白を作るためなのかもね、って言ってくれたんです」

言いながら感極まったのか、うるうると涙を滲ませながらそう言った。無個性であった理由。そこに意味があるなら、そこに役目があるなら、それまで打ちのめされてきた”無個性だった自分”が大きく救われる気がした。
危うく同じく無個性だった過去の私の心にさえ刺さる言葉を食らって動揺しつつ、月城少女への疑念が少しほどけるのを感じた。

彼の師匠である彼女の言葉もあり、そういう流れでワンフォーオールを継承した緑谷少年は、最初から莫大な力を制御しきって見せた。彼曰く「瑠奈ちゃんとの修行よりは全然なんてことないや!」らしい。一体何をさせて来たのか。
そんな出来事から半年、そろそろ雄英高校の入試を控えた彼らは余裕をもって修行を終わらせたようで、入試までの短期間はそれぞれに合わせて調整期間を取っているらしい。コーチングが完璧すぎる。
緑谷少年を最初から鍛えるつもりでいた私にとって、それを肩代わりしてくれた彼女のへの疑念はほぼ晴れており、逆に興味は尽きなかった。
なので余った時間で彼ら三人を遠くから見守って、隙あらば師匠である彼女の強さの秘密を見抜けないかと思っているのだが。

「全然わからないし、な〜んか私の方が逆に見られてる気がするんだよな〜〜!!」

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