昔話2(2/3)
『もう部屋に戻りたい』

わたしは会場の隅で膝を抱えてしゃがみ込んだ。せっかくのドレスが汚れてしまいそうだけど、もう気にしないことにしよう。
視界を遮っても勝手に聴こえてくる音楽や楽しそうな笑い声。少し目線をあげると、遠くのほうではたくさんの男の子と女の子がペアとなってダンスを踊っているのが見えた。
その中には、昨日までダンスのパートナーが見つからないと嘆いていた相部屋の子もいた。

『(よかった...パートナーばっちり見つけたんだね)

しばらくその子が踊る様子を見ていたのだが、次第にひとりでここにいる自分が悲しくなってきて再び膝に顔を埋める。
レギュラスはどこにいるんだろう。ダンスパーティーが始まる前からずっと探していたのだか全く見つけられない。
私、何かしちゃったのかな。
ふと昨日、相部屋の子に言われたことを思い出す。

『まさか。本当にレギュラス、違う子と踊ってるんじゃ...』
「レギュラスがどうしたって?」

突然の声に驚いて顔をあげる。

『シリウス先輩、』

目の前にレギュラスの兄であるシリウス先輩が不思議そうな顔をして立っていた。

「メル、レギュラスは一緒じゃないのか?」

『あ、はい...昨日から探しても見つからなくて』

しょんぼりする私を見てなのか、シリウス先輩は何も言わずに私の隣に並んで腰を下ろした。
暫し沈黙が続き、シリウス先輩へと女の子たちの視線が集まり始めた頃に私はようやく口を開いた。

『シリウス先輩、踊らなくていいんですか?』
「あぁ。今日はそういう気分じゃなくてな。それに、」
『?』
「将来の妹がこんなところでひとり泣いてるのに、ひとりにしておけないしな」
『い、妹!?』

レギュラスと結婚したらそうなるだろ?と当然のように言うシリウス先輩。
ちょっと待って。話が飛びすぎですよ!
驚きすぎて私が口をパクパクとしていると、シリウス先輩は悪戯っ子が何か面白いことを思いついたときにするような笑みを浮かべた。

「なぁ、メル。せっかくのダンスパーティーなのに踊らないのもあれだから俺と踊らないか?」

膝を抱えてしゃがんでいた私の前に差し出される右手。
シリウス先輩だと分かっていても、逆光のせいなのか。それとも会場の雰囲気にのまれて頭が上手く判断できないせいなのか。目の前で手を差し出しているのがレギュラスであるかのように錯覚してしまう。気がつけば私の右手はゆっくりと目の前の彼の手の方へと伸ばしていた。

あと少しで重なる、そんな時。
わたしの右手は突然誰かの手によって掴まれた。

「メルをダンスに誘うなんて、そんなに死にたいんですか兄さん」
『レギュラス、』
「メルをひとりにしてるお前が悪いんだぜ?」

参ったといったように両手をあげるシリウス先輩。
レギュラスはそんなシリウス先輩を睨んだあと、私の両手をとって立たせると扉のほうへと歩き出す。

『レギュラス、違うの!シリウス先輩はただ私と少しお話しててくれただけで、』

いくら私が話し掛けてもレギュラスからの返事は返ってこない。慣れていないドレスのせいで躓きそうになりながら、私は前を進むレギュラスについて行くしかなかった。
後ろを振り返るとシリウス先輩はまだ私がさっきまでいた場所にいて、私に気がつくと片手をあげながら「よかったな」と言ってくれたような気がした。


さぁ、手をとって


レギュラスに手をひかれながら見た夜空は
宝石のようにキラキラと輝いていた。
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