君の心は読解不能 5
「なんでこの俺が…」

そう呟きながら走る俺の手には明らかに俺のものではない1台のスマホ。

「というか普通、こんな個人情報の塊みたいなやつを忘れるか?」

俺がこうしてスマホを片手に走らなければいけなくなった理由は数分前に遡る。

「あ、これって」
「どうした?ヒロシ」

背後から聞こえた声に、パソコンから視線を外して振り返るとヒロシの手には先程までここにいた彼女のスマホがあった。

「アイツ、忘れていったのかよ」
「そうみたい」

アイツはヒロシの家の隣に住んでるみたいだし、後でヒロシが届けるだろう。そう思って俺は作業に戻ろうとしたのだが、

「ウマタロウ。まだ間に合うと思うから、これを六花に届けてあげて」
「はぁ!?なんで俺が」
「僕、走るの遅いからさ。若いウマタロウが言った方が絶対速いと思うんだよね。という訳でいってらっしゃい」

椅子から引き摺り下ろされ、背中を押されて研究室の外に追いやられた挙句、有無を言わさぬ謎の笑顔のヒロシにアイツのスマホを渡されると同時にドアが閉められた。本当になんでこの俺が届けなきゃいけないんだよ。パスワードを入れても、目の前のドアが開くことはなかった。

こうして、俺は現在。スマホを忘れていった彼女に届けるべく走っているという訳だ。
しばらく走り続けていると、やっと遠くの人混みの中に小さな彼女の後ろ姿を見つけた。

「おい!六花!」

名前を呼んでも彼女は振り返らない。この距離じゃ俺の声は届かないらしい。すぐそこに彼女は居るのに焦ったい。彼女に追いつくために、俺は少しスピードをあげた。彼女の側まで行くと、これ以上逃げられないように(彼女は決して逃げているわけではないが)彼女の腕を掴む。

「おい!ちょっと、待てって!」
『え?あ、』

振り返った彼女の目から大粒の涙が溢れていた。


「は?お前なんで泣いて…」
『ごめん...ごめんね、天馬君。びっくりしたよね。すぐ泣き止むから』

俺だと分かると慌てて目を擦り、涙を拭う彼女。何度も何度も彼女が拭っても涙は止まる気配がない。こういう時はどうしたらいい?昔から一緒にいるヒロシなら優しい言葉をかけて彼女を泣き止ませることができるんだろうが、生憎俺はそんな言葉なんて持ち合わせていない。

ただ、

『天馬、くん?』

コイツを泣き止ませたい一心で

「誰からも見えないように、しばらくこうしててやる。
だから、早く泣き止め」

彼女の頭を自分の胸に引き寄せた。

(心の何処かで、この時間がずっと続けばいいと思う自分がいることに気がついたけれど。
俺は気づかないふりをする)
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