気まぐれに外に出た。
鞄も持たず、誘われるように。
黄昏の風はさらりと頬を撫で、緋色の空は半分藍色に染まっていた。吐いた息は白く水に滲む絵の具のように揺らめく。
明日もきっと良い天気。いつもと変わらないはずの風景に目を奪われ、独り呟く。雲には厚みがなく透明に輝くようで、強い風に溶けながらみるみる遠くまで流されていく。
遠くの空を眺めながら、昨日テレビでみた蜃気楼を思い出した。光の異常な屈折により空中や地平線近くに遠方の風物などが映る現象。日本でも冬場の視界が良い日なら発生するようで、私の死ぬ迄に運が良ければ見てみたいものリストに追加された。
(ちなみにNo. 1は夜のビックベンであるが、以前ロンドンに行った時は兄に連れ回され観光どころでは無かった。歳が離れていることもあり兄妹仲は良いのだが、強引な所が玉に瑕である。強引な方が好きという女性も多いけれど私はどちらというと優しいタイプが好きなのでいつか笑顔が素敵なイケメン紳士とイギリス旅行に…なんて妄想に至りにやけていたら、近くにいたちびっ子に目を逸らされた。子どもにそれをされるとダメージが大きい。)
レースのストールを靡かせながらのんびりと歩いていると、なにやら知らない道に出た。見慣れぬ風景に、迷ったのかしら、なんて他人事のように考える。何十年と慣れ親しんだ街でも案外知らない場所があるんだなぁ。空間認知能力の乏しい私はすぐに道に迷うのに引き返す気持ちにはなれず、寧ろこのまま進んだら何処に出るのだろうと冒険心か探究心を擽られた。ああでもお夕食までに戻らないと家の人に迷惑をかけてしまう。残念ながら
移動体通信システムの端末はチェストの上だ。もう少しだけ、もう少しだけ行ったら帰ろう。
いつの間にか太陽は姿を隠し、西の空に夕焼けのなごりが柔らかい闇に吸い込まれてゆく。そしてーー
そして蜃気楼の中に消える
(プツリと記憶が途切れた)
»Back Next»
ALICE+