そこそこ遅い時間でも並盛駅周辺の繁華街は賑わっている。その中を片腕に莉桜を、もう片腕に優月を引っ付けて歩く私はまるでキャバクラ帰りのおっさんのようだと思った。
両サイドからかかる声に応えている内に駅に着き、それから何かと理由をつけて家に泊まろうとする二人に負けていつでも家に来ていいからと言って帰す。
疲れたけど楽しかった。こんな日も悪くないなんて、そう思えるようになったのも親友が帰ってきてからだ。今まで人と関わることを恐れていたのに親友にまた会えたことでその感情は薄まりつつある。我ながら単純な理由だ。
改札の先の二人の姿が見えなくなるまで立って、電車のアナウンスが聞こえたところで帰ろうと動き出した。すると誰かに腕を掴まれる。後ろを振り向くとカルマがいて、もう一人いたやと思い出す。
「俺のこと忘れてない?」
いたね、そう言えば。そう言ってしまうくらいに今日の彼は陰が薄かった。
まだ時間あるからもうちょっと付き合ってよと、そう言われて手を引かれ連れてこられたのは並盛公園。なんでこんな場所知ってるんだと思ったら昼間、スズに案内されたらしい。
夜の公園は真っ暗で、等間隔に置かれている外灯の灯りだけが頼りだ。その中を彼は迷わず進んだ。
自販機を見つければそこにお金をいれてどれにする?なんて聞いてくる。奢ってもらうのは気が引けたからスマホを取り出そうとすればいいから奢らせてよと自販機の前に立たされたので少し悩んでボタンを押した。
「いいのこれで?」
「いいんだよこれで。」
アツアツのホットコーヒーを片手にベンチに座った。プルタブを引けば仄かな蒸気に乗って芳ばしい匂いが鼻孔をくすぐる。一口飲めばその香りとともに苦味が口の中に拡がった。
「ブラック飲めるんだ。」
「甘いものが好きだけどそれ以外も普通にいけるね。」
カルマは?俺は甘いのじゃないとダメ。ふーんと会話をしている間に彼はいつもの煮オレシリーズを持って隣に座る。
「今日静かだったね。」
「さすがに女の子の部屋に入るんだから緊張くらいするって。」
「人の部屋ってそんなに緊張するっけ?」
「...奈々緒は友達いないからそんなこと言えるんだよ。」
「私にだって友達くらいいるから。」
まるで今まで友達ゼロだったんでしょと言うような言い方にムッとして少し強めに返せば知ってるよと笑われた。
「今日知った。それに昔の奈々緒も泣き虫で可愛いってことも。昔のままだったらもっと弄ってたかもね。」
「それだけは止めて。」
まあそんなもしもの世界なんて絶対にあり得ないんだろうけど。そう考えている間にカルマは何を思い出したのかクスクスと笑いだした。
「覚えてる?これくらいの時期だったよね、奈々緒が道中で泣いてたの。」
「あれは...熱で涙目になってただけ。」
面白くなくて顔を逸らすとへーとニヤニヤ気持ち悪い顔をするから腹が立つ。
そうあの日は熱で涙が出ただけなんだ。決して泣いていた訳ではない。熱で涙が出ただけ。