「ふむ…名字名前か。」
ふう、と一息ついて、読み終わった本をぱたりと閉じる。
この間この本のコミカライズの話が来た。
それまで読んだ事も無かった作者だったが、この機にと編集者がダンボールにその作家の本を入れて持ってきた。
その作家は、冊数からしても若手だろう。
編集者の話によると最近じわじわと人気を高めている作家らしい。
彼(性別を知らないので文の感じから勝手に僕が男と思っている)の文は突飛にも関わらずどこか説得力があり、好感が持てる。
ところで、コミカライズと言うと、どこかライトノベルを想像するが、この本はその部類ではない…と、思う。
思う、というのも、最近純文学とライトノベルの差が曖昧になってきている。
この本は例えるならば夏目漱石の”坊ちゃん”を純文学ととるかライトノベルととるか。
そう例えると分かりやすいだろう。
僕は基本的に、レーベルや表紙、内容のジャンルを見てライトノベルかどうかを判断するから、『坊ちゃん』は純文学と捉えている。
『坊ちゃん』や『我輩は猫である』は口語体の小説…砕けた文体の先駆けだと僕は思っている。…と、話がえらく脱線してしまった。
脱線ついでだが、彼はどうやらこのS市杜王町に住んでいるらしい。昼からノベライズの方針について話し合う事になっている。
(しかしこの名前…どこかで…)
『ぴん、ポーン』
間延びする自宅のインターホンにちらりと時計を見ると、もう十三時をまわっていた。
本を読み始めた時は朝だったのに、飲み込まれるように読んだな…と思いながら玄関へ足をむける。
先ほどまで考えていた事を一旦頭の角においやって、コミカライズの事を考える。
そして玄関のノブをまわした。
「チース露伴セーンセ!」
…
無言で少し開いたドアを閉じようとすると、すかさず仗助の足が入り邪魔をする。容赦なく閉じられた扉に足を挟んだ仗助は一瞬渋い顔をしたがすぐに元の笑顔に戻る。僕はその笑顔がとてつもなく気に入らない。
「…帰れよ仗助。これから仕事で客人が来るんだ。」
うっとうしいものを見る目で言う。
それでも仗助の奴はにこにこと笑っている。ドアに挟まった足は抜かない。
「あ、あの〜…岸辺センセー、お久しぶりデス…。」
がたいのでかい仗助の背からひょっこりと顔を出した少女に見覚えがある。
かつてこの町内に潜んでいた殺人鬼、吉良吉影の退治で共同戦線を張っていたスタンド使いだ。
(…あ)
「なるほど、そうか…通りで聞き覚えがあると…」
はは、と笑って片手で額をおさえる。
すこし考えれば分かるものを。
「ええっと、私がその仕事相手で…す…。」
緊張しているのか尻窄みになっている言葉にまた少し笑いが込みあげる。
そういえばその作家には少しの期間、短編を載せていた雑誌で休載していたと言う。
考えてみればこの期間とスタンドバトルが続いていた(らしい)期間はぴったりと合っている。
「名字名前…うん、分かったよ。あがるといい。話し合いをしようじゃあないか。
…仗助は帰れよ。仕事の邪魔だぜ。」
「わーかってるってーの。じゃあな名前」
ひらひらと手を振って元来た道を戻っていく仗助。
「あいつは何しに来たんだ…?」
「仗助はここまで案内してくれたんですよ。私、地図を見るのが苦手で。」
「ふうん?それはまあいいが、随分と親しげなんだな、仗助と。」
「たはは、まあ吉良吉影と戦った縁もありますし…まずクラスメイトですから。仲良くもなりますよ。」
苦笑いのような笑顔を浮かべて話す彼女。
彼女が笑うときはいつもこのような顔をしている気がする。どうやら口角を上げるのが苦手らしい。
ふにゃりと笑う姿は可愛いと思う。
「…ん?待て、クラスメイトってーと、お前16か。」
「えっ!そうですよ!」
なぜ今そんな事を、という顔だ。
「お前、デビューしたのは?」
そう聞くと名前は訝しげにしていた顔をさらにゆがめて口を開く。
「…?今年のはじめです…けど…?」
「ふうん」
16か。僕のデビューも16だったなと走馬灯のごとく思い浮かべる。
「…まあいい、打ち合わせを始めよう。まず…」
彼女も将来、もしかしたら大物になるかもしれないな。
僕は数奇な運命に新しいネタを手に入れた、とこっそりほくそ笑んだ。
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