「頼むよ!」

仗助と康一くんが私の前で手を合わせて懇願する。
周りの女の子はそれを見てひそひそ話をしているし、不良っぽい男の子は小さな歓声をあげている。
この二人は各方面で少しばかり名の知れている二人だから、こういう事をされると私は何となく困ってしまうのだ。
ちなみに、仗助はガラの悪い人達には割と有名らしいし、康一くんは優等生という面で先生からは一定の支持があるし、それに加えて由花子さんの一件もあり、それなりに校内では有名人だった。

「や、やめてよ…。で、ええっと…なんだっけ?露伴先生が?何?」

前髪を軽く後ろに流して仕方無さげな雰囲気を出しながら聞く。
すると二人は泣きそうな顔から急に犬みたいに笑った。

「ごめんね名前さん…露伴先生が風邪を引いちゃって、僕たちはこれから承太郎さんの所に行かないといけないし…でも行かないと先生すねちゃうから、お願いしたくて…。」

康一くんが申し訳なさそうに口を開く。

「お見舞い…」

露伴先生とはそれこそ仗助くんや康一くんと同じくらい関わりはあるけれど、先生が弱ってる上にひとりとあっては、中々珍しい状況だ。
少し気後れするのも仕方が無い。

「頼むぜ名前〜〜〜〜…。あいつ、怒るとなげえからよォ…。」

仗助君は本当に情けない声でそう言う。

「うう〜〜〜ん…いいけど…。あ!でもお見舞いに持ってくものくらい後で割り勘してね!ずるいからね!」

そういうと二人は勿論と嬉しそうに言った。


「はあ」

憂鬱な気持ちをため息に乗せて吐き出し、インターホンを押す。
片手には冷たいゼリーとスポーツ飲料。それから林檎も少し持って来た。
インターホンを押したというのに、露伴先生が出る事は無い。
正直いつもの事なので動揺はしない。
駄目もとで玄関を引いてみる。戸締まりはきちんとしているようだ。

「ろーはんせんせえ〜〜〜〜!名前ですよー!お見舞いにィ〜〜〜!わざわざ来ましたよォ〜〜〜開けてくださいよ〜〜〜〜〜」

近所迷惑を承知で大声を出す。正直私も恥ずかしいから先生には早く出て来て欲しいところである。
しかし先生は出てこない。なんだかんだ言って体はしんどいのだろうか。
仕方が無い。私はスタンドのビジョンを小さく縮めて、鍵穴に潜らせる。
かちゃりと奥から音がする。スタンドが鍵を解錠させたようだ。
ちなみにこのスタンドを小さくするという技はジョースターさんからこっそりと聞いたものだ。これがなかなかどうして役に立つ。

「入りますよ、先生。」

小さく断ってドアをあけると、ほこりひとつ無いような内装が目に入る。
きっと先生は寝室に居るのだろう。一度挨拶はしておかなければと階段を上がってドアを叩いては開け、叩いては開ける。
何故ってそりゃあ、私が先生の寝室なんて知っている訳が無いからだ。

「っおい!ここだ!ここだよ!」

急に最奥のドアが音を立てて開き、先生が息を切らしながら登場する。

「先生。なんだ、元気じゃないですか。」
「元気じゃあない!!よく見ろよ!汗ばんだ肌!紅潮した顔!切れた息!どこが元気に見えるってんだ!」

露伴先生はぎゃんぎゃんと吠えるように喚き散らす。
私はそれを半分聞き流しながら持って来た袋をがさがさと物色し、ゼリーとスポーツ飲料を手に取る。

「うるさいですよ先生。病人だってんなら早く横になってください。あ、あとごめんなさい、勝手に入ってしまって。」

飄々を持っているものを見せつけながら言うと、先生はぐっと言葉を詰まらせて、おとなしく寝室に戻って行く。
健康だったらまだまだ言い返してくるのだろうが、回らない頭ではそうもいかないのだろう。

「ゼリーです。一応ぶどうとみかん買って来たので、好きなの選んでください。私、スプーン持ってきます。」

ベッド脇にある棚に品物をぽんぽんと置いて、説明する。
その間露伴先生は半身を起こして物珍しそうにそれを見ていた。

「…お前、スプーンの場所分かるのかよ。」
「ええ、多分。」


階段を降りてスプーンを探すついでに、包丁も拝借して林檎を剥く。
スプーンが見つかると、皿とフォークも丁度見つかったので、一緒にそれを使う。
ああ、なんて厄日なんだ。こんなに露伴先生に尽くす羽目になってしまうなんて。
そしてあんなに辛そうだった先生は、きっと今日の記憶も曖昧になってしまうのだろう。
なんて損な役回り。私のアピールも打ち止めだ。





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