SBRもそろそろ終盤。これまでにためたポイントで少しだけ他より余裕がある私は、夜通し馬を走らせたりすることはなくしっかりと焚き火をして、最低限の寝具で眠る。最初はテントなんかを張る輩も居たようだが、それは馬にとって重大な負荷になる。
ところで今、季節は冬だ。焚き火は一晩付けっ放しが理想である。なので、という訳ではないのだが、同じ地点を走っていたディエゴ君を捕まえて、交互で火の番をすることにした。最初は嫌々やっていたディエゴ君も、快適に眠れるならいいかと思うことにしたらしい。

「おい、起きろ。朝だぜ。」

ゆさゆさと体を揺さぶられる。なんだ、モーニングコールなんて頼んでやしないのに…と体を起こすと、ぐちゃりと下半身で嫌な感覚がした。そういえばディエゴ君は嗅覚が敏感だと聞いたことがある。あまりにもタイミングが悪くは無いだろうか。

「……おはようディエゴ君。聞きたくはないのだけど、何で起こしたんだい。」
「おはよう名字くん。やけに血なまぐさいからな。まさかとは思ったんだが…名前を明かさないわけだよなァ?」

私はレースに名字だけを明かして参加している。何故なら名前を明かすと、女と言われるだろうと思うからだ。もしかしたら男と思って貰えるかもしれないが、どこかで女性的な名前だと思われる事だろう。
というのもこのレースは女性は参加出来ないようになっているのか、それともただ女性が乗馬をすること自体滅多に無いからなのか、女性参加者は居ないと言っても過言ではないだろう。もしかしたら私と同じく男装をして潜んでいる奴も居るかもしれないが、男装をしていて、しかもそれがばれていないのであればそれは男としてカウントしたって怒られやしない。
その理由としては、女性は守られるもの、だとか女性は戦闘に不向き、だとかの理由だろう。つまり女性は弱いものとされているのだ。そんなのフェアじゃあないだろう。

「うるさいな…これ、あまり周りにバラさないでおくれよ。」

言って立ち上がる。心底ディエゴ君が起こしてくれて良かったと思う。早めに気付いたおかげで服にまで染みていないようだ。

「さあ、どうだろうな?…といっても、このタイミングでバラすってのも得策じゃあないか。失格になってくれれば良いにしても、君に賭けた大勢の人間が何しでかすか分かったもんじゃあないからな。」
「それはご明朗なことで。僕ちょっと…顔洗ってくるよ」
「ああ」


夜、火を見張っていたら、何処からか血のにおいが漂ってきた。近くで野獣が狩りでもしているのかと思ったが、それにしてはあまりにも距離が近い。まさか、と思い側でぐうぐう寝息を立てている野郎を見る。怪我でもしているのかと布団を捲ると、ぶわりと増す血のにおいに思わず舌なめずりをする。
服の上から腕や腹を触って確認するも目立った傷は無い。

「…まさか」

思い至ってそんなはずは無いと思い直すが、香り立つ血のにおいは本物だ。確認として少ししっかりと触診する。なんてことだ。ここ数ヶ月、男としてレースに参加していた人間が実は女だったなんて漫画のような事があるのだろうか。しかし事実目の前の人間はそうしているのだ。
何だか急に居た堪れなくなり、火照る顔を焚き火のせいにして思考を追いやった。


突然意識し出すなんて
(馬鹿らしい!)


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