薄暗く、もう数メートル先は闇に包まれて視認は適わない。
もしこの先に敵が居たとしても、アサシンのサーヴァントであれば私は気がつかないだろう。
「おい、肩の力抜けよ。この道には誰も居ない。」
空気から光る粒子が渦巻いて、すぐさま人の形を作り上げる。その姿は見慣れた自分のサーヴァントであるランサーだった。
「そうね。ごめんなさい。少し疑心暗鬼になっていたみたい。」
ふう、と小さく息を吐いてランサーに向き合うと、彼はにこりと笑って見せた。その笑顔にとても安心したのは何故だろうか。まだ知り合って数週間だというのに、私は彼を信頼している。
いや、パートナーとして信頼しなければいけないのは当然だ。だが、あの胡散臭い神父から引き継いだサーヴァントだ。まともな信頼関係を築ける訳が無いと思っていたのに。
「お前は頑張りすぎなんだよ。」
「…」
彼はすぐにこうやって私を諭したように言う。私はどうもそれに弱いらしく、何となくその言葉が正しく感じられてしまうのだ。
暗い道を抜ければすぐに自分の家が見えてくる。外見こそ立派だが、私以外の住人は今やランサーくらいなもので、正直な話室内は荒れ放題という状況だ。
掃除が苦手な性分だが、それと同じくらい部屋を散らかす才能も無かったようだ。廊下には埃が積もり、部屋も同じ状況だった。
軋む玄関を開ければ天井には蜘蛛の巣が張っていた。
その玄関をすり抜けて真っ直ぐ自分の部屋に向かう。その後ろをずっと等間隔に幅を取りながら、ランサーは私の後ろをついてくる。それがなんだか鳥の雛のようで喉の奥で小さく笑う。
「ねえランサー。この後少しターゲットについて調べたいのだけれど、その時に新しい情報を教えてくれるかしら。」
「ん?ああ、そりゃ全然構わねえが……いや、それは明日にしようぜ。」
私の顔を見るや否やランサーは少し苦々しげに笑みを浮かべて、私に入浴を勧めて来た。いや、湯は張れていないのだが…床に就く前にちゃんと綺麗にしろという彼なりの気遣いだろう。
「うん、じゃあ私お風呂入るね。ありがとうランサー」
くあ、と大きくあくびをして着替えを抱えて風呂へ足を進める。すると先ほど私が出た部屋からガタリと音がして、それからすぐにランサーの声が聞こえてくる。
『いっちょ愛しいマスター様に孝行すっかね〜』
一体何をしてくれるのか。風呂から戻ったときの部屋を思い浮かべながら一人微笑んで歩を進めた。
たまには彼に甘えたっていいだろ?
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