「じゃ、また明日な〜」
「バイバ〜イ」

学校の退屈な授業が終わった放課後、陸上部の練習を終えてマキジ達と別れる。
私はお菓子を買いにスーパーに向かうことにする。なぜなら今日はトラックのコーナーで一気に抜かれたのだ。流石の私でもこれには内心少しだけ落ち込んでいた。
だからこそ今日は甘いものをたらふく食べてやる!と心に決めてスーパーのドアをくぐる。
そこで丁度携帯が震え、母かららしいメールを開くと晩飯の材料を買って来てくれとのことだった。


(ナツメグ…は家にあった、チーズは入れた、タマネギも入れた、付け合わせのサラダ用の野菜も入れたし…あとはミンチだけかな。)

手に持つ買い物かごの中身を数えるようにして確認してから残り購入するものを思い浮かべる。
この店はミンチが安い。ミンチだけではなくお菓子類も他のスーパーに比べると少しだけ安くて私はとても贔屓にしていた。
この時間は主婦がこぞって買い物に来るのだが、この店は何故かミンチに対して執着をしているのか大量にミンチは仕入れているようで閉店間際に来なかったら売り切れる事は無いという徹底ぶりらしい。
主婦の波をかき分けてミンチに手を伸ばすと、すぐ後に誰かの手が重なる。おばさん方の肉からなんとか手を出しているので相手の顔は分からないが私は譲らないぞ。なんていったって今日の夕食であるハンバーグがかかっているのだ。

「あれ、名字?」

主婦の壁からなんとか体を入れこむと聞き覚えのある声に心臓が跳ねる。
この声は、時々マキジ達と会話をしているのを見かけて、生徒会長に頼りにされているのを聞き、遠坂さんに殴られているという私の想い人なのではなかろうか。

「え、え、えみやくん…」

すぐに離された手のぬくもりが忘れられなくてばくばくと心臓が鳴る。ああ衛宮くん…素晴しき衛宮くん…。


二人とも買い物袋を手に赤く染まった空の下を歩く。今までは時間が合わなかったらしく出会う事も無かったのだが、途中までは衛宮くんの家と私の家は同じ方向だったらしい。

「まさかスーパーで会うとは思ってもなかったな。名字も夕飯の買い物か?」
「うっ…うん、まあそんな所〜…」

衛宮くんの袋の中には食材が沢山入っていた。一人暮らしだと思っていたのだが結構な量を買い込むのは買い置きか何かだろうか。
対する私の袋の中はお菓子半分食材半分といった所だ。女としてどうなのだ、とか衛宮くんは料理が出来るんだなとか沢山の事が一瞬にして頭をよぎる。

「衛宮くんって確かお料理上手だったよね。この間の調理実習とか手慣れた様子だったし」
「ん?上手って程じゃ…。あ、そうだ。今度食べに来いよ。」
「えっ」

驚きで揺れた私の手と衛宮くんの手が少し触れる。そこから触れた手は、スーパーで触れた時より少しだけ冷たかった。
すぐに衛宮くんから少しだけ距離を取って、空いている手で頬を冷やす。触れた方の手はスーパーの袋を辛うじて握っていて、自分の強めな握力にほんのちょっぴりだけ感謝した。

「あ、ご、ごめん。でもいいの?迷惑なんじゃない?」
「迷惑だったら誘わないだろ〜。飯を食うんだったら多い方が楽しいし。予定が無いなら明日にでも用意出来るぞ。」
「明日はもうマキジ達と夜まで映画って予定立てちゃったから…明後日とかでもいい?」

高鳴る鼓動が聞かれないようにあえてゆっくりとした口調で話す。本当は今にも吐きそうなくらい緊張と喜びとが混ざり合ってるのだけれど、それを悟られないように。

「ああ、待ってるよ。」
「うん。」

赤く照らされる衛宮くんはいつもより優しくて凛々しく見えた。もしかしたらその頬も朱が差しているのではないかと期待してしまうのは私が彼に恋をしているからなんだろうな。


夕焼けに深い青が垂らされる頃に、衛宮くんと別れる四つ角まで来てしまっていた。
他愛も無い話に花を咲かせるほんの少しの時間は私にとってとても楽しくて充実したものだった。あわよくば衛宮くんにもそうでありますようにと祈らずにはいられなかった。

「じゃあ、また明日学校で。」
「おう、気をつけて帰れよ。」

明後日が楽しみすぎてマキジと見る映画の内容が頭に入らないのはまた別の話。


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