いつの間にやら目の前の景色が見たことのないものに変わっていた。
世界と契約してからというもの、ぼんやりと座で待機していたのと生前も純和風暮らしだったのもあって、中世か何かそれくらいの大きな城の中にあるような部屋(実際後で外から見たら本当に馬鹿でかい城だった)が新鮮に思える。
周りをきょろりと見渡すと人影が2つ。
ひとつは異形なのだろうか、骨っぽい尾と思われる影が見えた。
もう一つはある程度引き締まった体の女性のようだ。
どちらに召喚されたにせよ、なるべく話せるマスターであるといいのだが。

「さて、私を召喚したのは一体誰なのかな?」

召喚の際に立ち込めていた風とホコリやらで靄がかってた視界がクリアになる。
髪を整えて靴の先も確認してようやっとマスターたる人間を見定めるために顔を上げた。

「……って、え……ランサー……?」
「よォ」

なるほど、パスは彼に通っていると言うことはマスターはランサーなのだろう。
いやしかし、えらく風貌が変わったものだ。
生前の彼はこうだったのだろうか?サーヴァントとして呼ばれるのは全盛期の姿であるから、彼の時代に呼び出されたのだとしたら知っている姿から差異があってもおかしくはない。
……と言ってもなんだ、なんというかすごくヤンチャである。頬に赤くラインなんて引いている。
文献には外見について記述は無かったのだから、まあこういう事もあるのかもしれない。

「貴方が私のマスターね?」
「まァな」
「私のクラスはキャスター。真名を名字名前。生前は魔法使いとまで呼ばれたんだよ」
「知っているさ。お前が何が好きかも、何で召喚されたのかもな」
「……ハア?」

ここがランサーの時代なのであれば当たり前だが私はまだ生まれてさえいない。
触媒は私が持っていたピアスなのだろう。ランサーから1つ譲り受けたものだった。
それを渡す記憶さえあると言うのだろうか、彼は。
つまり彼は

「サーヴァント……なの?」

第5次聖杯戦争の後の召喚であれば、記録が残っていてもおかしくはない。
私達はあの時、ある種敵同士でありながらも何故か色恋に発展したのだ。
厳密に言うとランサーの敵の味方だったのが私というだけだが、この違いを詳しく説明するとなると少し時間がかかるので割愛しよう。

「彼はバーサーカーのサーヴァント。私が望んだから、クーちゃんは私と肩を並べられる悪へ進化したサーヴァント。」
「つまり黒化した、と……。って待った、クーちゃんって?」
「クーちゃんはクーちゃんだよ。アルスターの大英雄、クーフーリンのクーちゃん!」
「あ、そう…」

えらくランサーと親しげな女は一体誰だ、一体何なんだ。
手に持つ鞭が恐ろしくて(特に持ち手側なんて、やろうと思えば卑猥な使い方だって出来そうだ。)胸ぐらに掴みかかる事ははばかられた。

「メイヴ、話がややこしくなるだろ」

ピンク髪の彼女はメイヴと言うらしい。
つまり彼女がクーフーリンを蹂躙した相手という事になる。
それだけ彼女は強く、強かで、強力だという事だ。
ランサーの一声に機敏に反応したメイヴはこちらへ迫る足を回転させてランサーに手を振った。

「ごめんね、クーちゃん。でも、この女が居ればもう百人力ってほんと?」
「ああ、名前が居れば何者にも負けやしないだろう。」
「お褒めに預かり光栄ですわ。よろしく、ランサー……ランサーじゃないんだっけ。ええと…バーサーカー?」
「ああ。」

それだけ交わすとメイヴは少しやる事があると部屋を出て行ってしまった。
彼女と手を組んでいる、それに彼女が望んだからという言葉を鑑みるにこの状態は聖杯によるものだろう。
聖杯からの知識によると『この』軸では聖杯がいくつかあるという事だし。
ああ、厄介な事になりそうだ。なんたってこの世界での私の立ち位置は主人公の敵らしいし。

「ね、ラン…バーサーカーはさ、覚えてるの?私と何があったか」
「…覚えてはねえよ。知ってるだけだ。お前の力量を信頼してはいるがそこに何の感情はねえよ」
「だよねぇ」

私も守護者になってからランサーに会っていたらこんな反応をする事だろう。
現界している私は座に居る私の分霊。座に戻った時点で記憶は知識として蓄積されて感情はほぼ無に戻る。それだけさっぱり出来たら楽だったのに。
ま、そういうもんだって知っている分楽といえば楽なんだけれど。

「そんなもんか、そんなもんだよね」
「あ?」
「べっつにィ」

忘れられたっていい。私を覚えてくれて、必要としてくれるのなら。




「サーヴァントキャスター。よろしく、そして死んでもらうわ」
「先輩、戦闘です。指示お願いします!」
「うん」


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