薄暗い室内。電気はある程度の節約が必要なのはもう今になったら仕方が無い。
外は常に吹雪いていて、窓が無い室内であるのにもかかわらずごうごうという音だけは聞こえていた。
人々の目はブルーライトを浴びて爛々と輝き、映される文字を一心不乱に追っている。
しゅん、と空気を切る音でその空間に一筋光が差し込まれ、吹雪が起こす音は一層大きく聞こえた。
作業をこなしていたスタッフはその音に手を止める者もいれば、全く気にも留めない者も居た。
しかし、光を遮り入ってきた少女を見たスタッフ達は途端に伸びをしたり、首を回したりと一息つくような動作をはじめた。
入ってきた少女は手にバスケットを持ち、腕には袋が掲げられている。
「みなさん、お疲れ様です。順番に休憩にしませんか?」
少女がスタッフにそう問いかけると、スタッフは一斉に立ち上がり彼女の持っているバスケットへ興味を向ける。
少女はそれに気がつき、近くの空きテーブルにバスケットを乗せてビニールの中に入っていたペットボトル詰めのミネラルウォーターを並べる。
バスケットの布をどけると、そこには程よく焼けたクッキーが入る分だけ入れたという風に所狭しと入っていた。
立ち上るバターの香りに、スタッフの中でもより多く働いていたロマニの腹が小さく鳴いた。
「ほら、ドクターロマンも」
「うん、ありがとう名前ちゃん」
名前と呼ばれた少女からミネラルウォーターを受け取りゆるく微笑んだロマニは、促されることによってようやく席を立った。
パソコンの画面は他のスタッフよりも窓が多く開かれていて、そもそものディスプレイの数も他とは違うことから、彼はとてつもない量を一人でこなしていたことが垣間見れる。
「ほらほら、クッキーもありますから。遠慮せずに」
「え、遠慮してたわけじゃないんだけど……いや、いただくよ」
「はい!」
細い指で熊の形をしたクッキーをつまんで口に運ぶ。
それを見た名前はにこりと微笑んで満足げな表情をした。
「うん、美味しい」
「ありがとうございます。今日のはエミヤが手伝ってくれたんですよ。」
他のスタッフ達を遠慮なく熊の形やウサギの形をしたクッキーを口に運び、口々に名前に感謝の言葉を述べる。
そのたびに名前は恥ずかしそうに照れて謙遜しているのがロマニにも見えた。
ロマニもそれにならって色々な形のクッキーを口に運んで、何度も名前に感想や感謝の言葉を述べる。
「……ドクターロマン」
「なんだい、レディ名前」
「いえ、ロマニは一段と頑張ってるので特別にこれを」
内緒ですよ、と付け加えて名前が懐から取り出したのはビニールに包まれたカップケーキだ。
ケーキの中にはドライフルーツが混ぜ込まれているのが一目見ただけでもわかる。
丁寧にビニールには真っ赤なリボンがかけられており、そこに差し込まれるように小さく折られた手紙が挟まっていた。
ロマニはそれを手にとってまじまじと眺め、手紙に気がついたようでそれに手を伸ばす。
「あ、手紙は後で」
「ん?…ああ」
合点がいったようにロマニはうなづいてカップケーキを自身の机に置いて、またクッキーに手を伸ばした。
休憩も終わり、仕事に没頭しているスタッフに隠れてカップケーキの包みに挟まれていた手紙を開きロマニは口元を緩める。
口頭で伝えればいいものをと思ったが、他のスタッフの手前気が引けたのかそれともこういう趣向も悪く無いと思ったのか。
それも、今日の分の仕事さえ終わればわかることだ、とロマニはディスプレイに向き合うことに専念した。
例の騒動から増えたカルデア内の空き部屋。
最初は今は藤丸くんが使っている部屋しかロマニが休まる事がなかったのだが、今や休み放題だ。
その一室に腰を下ろした名前はぼんやりと天井を見つめた。
特段思う事もないのだが、ただ時間が過ぎるのを待つばかりだった。
ロマニに渡したカップケーキの手紙にはこの部屋にて待っていますとだけ書いている。
察しの悪いロマニでも流石に意図は察する事ができただろう。
整えられたベッドの上でまどろみかけていた時、扉が開いた。
その扉の向こうにはロマニが気まずそうに立っていた。
「お疲れ様」
「ごめんお待たせ、名前。寝てた?」
「いや、ちょっと微睡んでいたところ…」
もやがかかっているかのような思考でロマニを見上げれば、やはり疲れているのか少し足元がおぼつかないように見えた。
「ね、ロマニ。おいでよ」
ベッドに腰掛けた傍を手のひらで叩き、ロマニを招く。
彼は一瞬驚いた顔をして、途端に顔を赤くして顔の前で手を大きく振った。
「いや、いやいやいや!そ、そういうわけには!」
「何を勘違いしてるの?寝てないんでしょ?おやすみなよってこと」
「へっ?」
「膝枕がご所望で?」
今度は膝を叩くと、彼はますます顔を真っ赤に染めた。
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