「レオ、目」
「うス」
ここはHL、三年前にニューヨークに異界が云々。何はともあれ色々あって今こうして私たちは人間と異界者と、それから異能や魔術。色々な物と共存している。
それだけ混沌なのはこのニューヨーク改めHLだけなのだけれど、やはりHLの中で世界をも揺るがす出来事なんてザラだ。
仕方無い、HLはありえないことなんてありえない。そういう場所なのだから。
ソファに腰掛けているレオの目を覗き込んで異常が無いか確認する。
「まだ熱い?」
「少しだけ。」
目の前に座って、綺麗な瞳を向けている男の子は最近ライブラに加入したレオナルド・ウォッチ。神々の義眼を持っていて、色々な事が出来るらしい。
私は基本的にヒーラーであるので、彼が敵になにかしらしたという事を直接目にした事が無い。
そもそもヒーラーなんてのも今日日流行らなくて、医学が異常に発展しているこの街では応急処置で私が起用される事が多い。
今はそもそも医者に頼る必要も無い、レオの神々の義眼の熱が冷めにくいから氷嚢を出してくれという話だった。
そんなもの自分でやれとがなりそうにもなったが、そこは普段あまり役に立ってないのだからと意見を飲み込み処置に励んでいる。
「名前さんはあまり戦闘には参加しませんよね」
今そこを突くのかレオナルド少年。小さくため息をついて、彼の目から離れて向かい側のソファに腰掛ける。
白衣のポケットから煙草を取り出し安いライターで火をつける。
「まーね。私は基本治療が役目だから。」
肺一杯に煙を取り込んで頭が少しくらりとした時点で息を吐く。
あれ、これクスリだったかも。
「あ、ちょっと人の前でクスリするのやめてくださいよ〜」
何があっても知りませんよ、と苦い顔で言う彼にはいはいと生返事を返した。
次の瞬間に私とレオの携帯が両方共鳴り響いた。こういう時は出動の要請なのだろうが、私にも連絡が入るとは珍しい。
「アロー、スティーブン?今日は私もなの?」
レオはレオでザップからかかってきたらしく何か口論をしているが、その声が遠くなるように片耳を押さえて通話を続ける。
『うん、急に申し訳ないけど今日はド派手に頼むよ。人払いは済んでる。少年以外は自衛も出来る筈だよ。』
「ん、分かった。」
口に咥えていた葉っぱの火を消して少しクラつきが残る頭でレオの引っ張って現場へ急ぐ。
レオは引っ張られながらザップと喧嘩を続けていたのだから、こいつもこっちに慣れて来たのだろうと思う。
「レオ、目は大丈夫?」
電話を一方的に切ったのであろう、少し息があがっているレオに問いかけるとなんとか、と返って来た。
「軽くだけ聞いてはいると思うけど、急にこっちが押し負けはじめたらしくてね。君が向こうさんの視界をぐるぐるっとやってくれるんだろ?その後は私がやるから、このマスク付けときな」
懐からガスマスクを取り出してレオに渡すとどこから出したんだ…と小声で呟いてからわかりましたと返事が返ってくる。
私もそれを聞いて小さく頷く。今まで何度か戦いに参加していた彼だから最悪私の近くに居れば心配はいらないだろう。
思っている間にいつの間にか辺りに人はおらず、何やら虫柱のようなものが少し先で蠢いている。
「あれね」
ポケットから携帯を取り出し、スティーブンに電話をかける。少しのビープ音の後にいつもより少し焦ったような声が聞こえる。
「ハーイ、あの虫みたいなのを駆除すればいいんだよね?二分後に開始するから、自衛頼むよ」
『ああ、頼もしいよ。少年は一緒なんだね?』
「うん、だから大丈夫だよ」
ほんの三言の会話だけれど、それだけで全て伝え切った。あとは向こうがなんとか動いてくれるだろう。
ちんぷんかんぷんだという表情のレオの手を一層強く握る。
「聞こえたよね?もうあと一分であの大群の中だ。私の合図で頼むよ、レオ」
「は、はい」
「3、2、1、」
レオの目が大きく開かれると、一瞬虫のような何かの大群が動きを止める。成功したようだが、如何せんこの数だ。レオの目も長くは持たない。
「アマティスタ式、ラ・ポム・アンポワゾネ」
名前さんがそう一言言ってからはすぐだった。
僕が少しの間動きを止めて、ああ、またこれは眼球で火傷しかねないな〜とか思っていたのに。
名前さんが一言言うと、ガスマスク越しにも分かるHLを覆う霧よりも濃い…瘴気のようなものが一面を覆った。
握られた手を引かれたから何事かと思えば、目を閉じても大丈夫だとのサインだったようだ。
言われなくてもあまりの衝撃に能力は解けていたのだけど。
「強いじゃないッスか!」
「別に私が非戦闘員とは言ってないじゃない」
後で名前さんとザップさんにこれでもかと馬鹿にされたのは言うまでも無いだろう。
俺はやはり一般人はライブラには居ないのだ、と再確認をした。
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