「ばれんたいん」

見事にひらがな口調で言ってのけた薬研藤四郎は私の持っている菓子に視線を移す。
持っている菓子、というのもチョコレートで彼らが居た時代では無かったのかもしれない。

「ああ、女性が男性に贈り物をするんだよ。日本ではね。」

だから受け取れと言外に言うと薬研はなるほどな、と一言言ってからあっさりと受け取ってくれた。
そのまま薬研はぱたぱたと廊下を歩いていった。なんだ、礼くらい言ってくれてもいいんじゃないかとも思ったが、その辺りの作法は刀には無縁だ。これから学んでいくことだろう。
ちなみに薬研は部屋に戻ったのだろう。第一部隊は問題児や薬研のような人間(?)を必要としている奴がちらほら私から見ても見受けられるように思えた。同室にして薬研に負担がかかるのではないかと聞いたが彼はにこりと笑ってそれくらい大将の苦労に比べたらどうってこたあねえだろ、と言ってのけた。
そうして次の作戦や編成を考えデータに移していたところにひとつ足音が鳴る。
歩幅や足音の感じからもこれは多分薬研だろう。礼でも言いに来たのだろうかと開かれるだろうふすまに落とされる影を見る。
その影はなんだか薬研とは違うようなシルエットをしているような気がした。

「大将、作戦を練るのならそうしていてくれよ。」

どうやってふすまの向こうの景色を把握したのか、薬研はそう声を出す。
やはり薬研だった。そうならさっき思った違和感は何だったのだろうか。

「ん」

ひとつ頷いて作戦を練るのに戻ろうと振り返った体を元に戻すと、それと同時にふすまが開かれる。

「もうこっち向いていいぜ、大将」

一体何なんだと振り向くと一面赤色に染まる。
これは何なのだろうかと一瞬思うが次の瞬間に鼻をくすぐる香りに察しがつく。

「薔薇…薬研、これは一体…」

それもかなりの数がある。いくつか数えているうちに眠くなってしまいそうなくらいだ。

「バレンタイン、なんだろ?バレンタインは男性が『好意を持っている女性』にこういう物を贈るとざっしとやらに書いてあったが?」

不敵に笑う薬研に笑いが漏れる。
それに釣られて薬研も気の抜けた笑顔を零して、二人で小さくクスクスと笑い合う。

「気障な奴だな」

薔薇を受け取り傍らに置いてそう言うと薬研は私の頬を撫でて悪戯をするガキのように笑う。

「それは大将もだろ、ちょこれーとの包装紙に恋文など仕込みやがってよ」
「ああ、バレてしまったか。しかし残念だが、それは恋文などではなく逢引の誘いであろうよ。」

薬研の髪をさらりと撫で付けてやると、薬研はそれに少し驚いたような顔をしてからまた笑顔を浮かべた。
彼の笑顔には多くの種類があるな、と沢山のキスを落とされながらぼんやり思った。


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