雪が降っている。
冬の澄んだ空に鈍色の雲が掛かり、私たちに影を落とす。
吐いた息は白く、藍色がかった空へ溶け込んでいく。
繋がれた手は乾いていて、正直暖かくもなんともない。

「今日は硲さんの家泊まる」
「…わかった」

空を眺めて言う私に硲さんはなんてことないように頷いた。
確かにこの歳になって交際している男性の家に泊まる事なんてあってもおかしくない。
繋いだ手を強く握り直していつも駅へ向かう道から硲さんの家へ向かう道へ進路変更する。
強く繋がれた手は、さっきよりも暖かいような気がした。



硲さんの家はいつも整頓されていて隙がない。
私が頻繁に来ていた時でさえ一点の曇りもなく清潔で整頓された部屋を保っていた。
私がいる場所もちゃんと作ってくれた上でそれなのだから、彼は本当に凄い人だ。

「硲さん、今日は楽しかったですか?」
「ああ、とても。名前が居ればどこだって楽しくなる。不思議だな」
「やだな、もう。大げさですよ」

テレビをつけて適当にくつろぎながらの会話がどこか気が抜けている。私だけ。
硲さんは座椅子に座って暖かいお茶を飲んでいるがその姿勢は整ったものだ。

「でも、楽しんでもらえてよかった。折角の誕生日なんですから」
「ありがとう」

この歳になって誕生日を素直な気持ちで祝える人はそういない。だからこそきちんと心を込めてお祝いする。
私は大した事は出来ないからいつもと殆ど同じようなただのおでかけになってしまったけれど、それでも楽しんでもらえたというのだから私はそれを信じるしかない。

「…道夫さん」
「……名前、今日は」
「明日はおやすみって言ってたじゃないですか」
「君が休みじゃないだろう」
「いいんです。明日の仕事はお昼からにしてってマネージャーに頼み込んでる」
「…わかった」

どうか私の自己満足で貴方が安らぎますように。


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