ランドマークタワーがいつのまにかリニューアルしていることを知った。

京都から離れてしばらく。
東京でアイドルになってプロダクションに所属して、一度は頂点に近い位置からその街を眺めることがあった。
今は小さな事務所で、事務所のひとつの顔としてあの頃に比べたら細々と仕事をしている。
そして仕事の一環で京都へ戻ってきたのだ。
むせ返る暑さは盆地特有のもので、今やメインストリートである河原町通りの風景もめまぐるしく変わっていた。

「久しぶり」

久々に顔を合わせた同級生は、いつのまにやら化粧っ気が出ていて、女性であると主張してきているように感じた。
前見たときは肩に触れるかどうかくらいだった髪も肩甲骨の下あたりまで伸びて、少し色が明るくなっているように見える。

「綺麗になったね」
「北斗、そういうとこは変わらへんねんな」
「まあね」

jupiterとしてデビューする前に、いい大学に入るために東京で一人暮らしをしていた。
そこから街でスカウトされモデルとなって今があるわけだけど、それでも俺の原点はこの京都にあるのだろう。
出身地なんだから当たり前なんだけど、それでもだ。

「仕事は昨日?明日?」
「ん、昨日。今日1日はこっちで少し遊んでちょっと実家を見て明後日の朝帰る」
「え、じゃあ私と会う時間とか無かったんちゃう?大丈夫なん、お母さんとか会いたがってはるんちゃうの」
「昨日の晩にも帰ってるから平気。今日は名前と会うよって言ったらじゃあ夕飯作らなくていいなってちょっと喜ばれたくらいだよ」
「そんなん絶対本心ちゃうやろ!うーん、でもまあ...うん、そっか。そういえば北斗は伏見やっけ、京田辺やっけ」
「伏見。京田辺は山本だろ。いつも間違えるな名前は」
「ごめん、なんかこう...何考えてんのかわからんとこが似てるんかな?ふふ」
「心外だなあ」

傾いた日の光が鴨川を反射して俺たちを照らす。
光る名前の髪は今流行りのアッシュがかったブルージュで、そういえば髪を染めたとツイートしていたことを思い出す。
帰ってくるなら会いたいと言った名前は中高の同級生で、よくつるんでいた。
モデルになった時も掲載雑誌をたびたび買ってくれていたり、なんならJupiterのライブにもきているらしかった。
言ってくれれば関係者席も用意するよと言っても、1ファンとしてJupiterのライブに行きたいのだと言って断ってきた。
楽屋訪問も、普通のファンはできないからと変に遠慮してくるちょっと変わったやつなのだ。

「そういえば名前今日大学があるんじゃ?」
「うん?ああ、まあ。でも一回くらいどってことないと思うわ。大丈夫大丈夫」
「本当かな...」



「最近変わったんよ。前はしょーもない思って来いひんかったんやけどさ、最近友達と来たらえらいテーマパークみたいな誂えなっとってさ。ほんまびっくりしたんよ。
ほんでなんか売ってるのも京都由来のもんばっからしくて。やから東京に毒された伊集院クンにもええんちゃうかって」
「節々に嫌味を挟むなよ、いけずだな」
「京都らしゅーてええでっしゃろ」
「それは大阪弁だろ」
「ふふ」

久々に来た駅前も、懐かしさを残しながらもところどころ変わった様子が見られた。
そもそも京都タワーの中には滅多に来なかったし、一度連れて来られた時はなんだかよくわからない、薄暗い場所だったから記憶から消し去られていた。
そもそもあれは京都タワーの中と言えたのだろうか。
それすら今や分からない。


フライドチキンと牛串焼きが並べられた小さい机でビールが入ったプラスチック容器が鈍い音を立てる。
酒が呑める年齢になってから初めて旧友とビールを呑むのだからなんだか少し新鮮だ。
ソファは背が低くて、家にいるような錯覚を起こす。

「こないだのライブ、凄かった」
「事務所合同ライブのこと?」
「うん、そう。Jupiterだけやなくて色んなグループがあって、それでみんな仲良くて、楽しそうやなって思った。勿論新曲も感動したし」

ビールを煽る名前の顔は言葉に反して少し曇っているように思えた。
少し落とし気味な照明のせいもあるのだろうか。

細かい泡は時間が経つごとに嵩を減らしている。

「名前?」
「なんか、こうやって向かい合って喋ってるとあん時とそんな変わらんような気がしてまうねん」
「変わらないだろ、そんな一気に人は変われない」
「一気にちゃうよ、ちょっとずつ。こうやって数年越しに会うことがこれから何回も続いていくうちに、私の知らん北斗は増えてって、気がついたら知らん人になってそう。やのに私は気づかへん」
「どうしたんだよ、名前らしくない」

フライドチキンの湯気ははじめより薄れている
名前のビールの嵩も、最初見たときより少し減っているように思う
綺麗になったランドマークは時を刻む象徴のようだ

「変わらへん?私ら......友達やなくて、もっと...」
「ちょっ...」

慌てて名前の口に串焼きを突っ込む。
面食らった表情の名前は、まだ状況を飲み込めていない。
とにかく口に入ったものを咀嚼して文句を言うようにしたようだ。

「一応俺もアイドルだから、こういう場でそういう話は...」
「!!......ん、んぐむ」

謝罪らしき言葉を口にした名前は肉を飲み込んでもう一度謝罪をした。
こういう律儀なところが彼女のいいところなのだろう。時折さっきみたいに突っ走ってしまうが。

「ほんとごめん、じゃあ...うーん、ど...どうするんが正解やと思う?」
「俺に聞かないでくれよ...」
「やんなあ」
「じゃあとりあえず、二人きりになれるところ、行こうか」

名前、君、顔を真っ赤にしてるけど二人きりになれるところって、個室居酒屋の事だからね。


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