桜庭薫と再会したのは日の暮れた冬の日だった。
諸々あって煌びやかな街でも見に行こうかと都心部に出た時、1人で賑やかな街を眺めているのが彼だった。
高校の頃とさほど変わらない見た目に少々彼らしさを思いつつ、その姿に声をかけるべきか逡巡した後に結局声をかけることにした。
多分私はイルミネーションの煌めく街を少し遠くから見る彼にシンパシーを感じたのだと思う。今となって考えれば烏滸がましい話なのだが。
久しぶり、と声をかけると彼は少し考え込んだ後、ああ君か。と簡素に答えたのだ。
彼は医者になっていた。
外科医として日夜忙しくしていると言うが、今日は毎年のように有給をもぎ取っているのだと言っていた。外科はある程度スケジュールの調整がしやすいのだとも。
どうして1人なのにクリスマスイブに有給を取るのかと聞くと、亡くした姉と毎年見に来ていたイルミネーションを今年も見に来たのだと、何ともないように言った。
あまりにも世間話のように言う彼と、言葉を詰まらせる私の間には冷たい風が吹いていた。
「ところで君、顔色が悪いがこんな寒空の下に居てもいいのか」
片や私は逃げるように家を出て途方に暮れていた。
◎◎◎
「……、おい!起きろ!」
微睡みんだ思考は桜庭さんの声だけを捉え浮上する。
布団の暖かな温度は急に失せて、強制的に起床を余儀なくされてしまう。
「え、まだ7時……」
「もう7時だ。そうやっていつまで寝る気なんだ君は。ナマケモノにでもなるつもりか?そもそも6時半には起きると昨日話しただろう。早く起きろ、既にスケジュールは押しているんだ」
桜庭さんは呆れたように言う。
剥がれた掛け布団は無残な姿で床へと落とされていた。
『健康な身体は健康な生活から』、そう言った桜庭さんは帰る家のない私を適当なビジネスホテルに押し込めて面倒を見てくれていたのだが、いつしか私の貯金も限界を迎え、桜庭さんの迷惑も考えて家に帰ろうかと思っていた頃に「君と別に暮らしていたら面倒だな。どうせ部屋も余っているんだ」と桜庭さんの部屋(広い)の一室を間借りさせて貰うことになった。
帰りたくないのだと涙ながらに漏らした私を気遣ってくれたのかは定かではない。
そして『健康な身体は健康な生活から作戦』の一環として、今日から朝のランニングを取り入れるという話だったのだ。そういえば。
「1番最初が上手くいかないと続かないだろうが君は。まだ外は冷える、しっかりとトレーニングウェアを着ろ。帰ったら朝食にするからな」
「は、はい……」
この『作戦』は長くなりそうだ
back /
top