夢を見た。
暖かな春の日に、大きく開いた桜の木の下で小さなお弁当箱を覗き込む時みたいに、のどかで心がウキウキするような。
隣で同じお弁当箱を覗き込むコウくんはどんな顔をしていただろうか。


「もしもし。駅着いたけど、今」

言いかけた口は直ぐに閉じた。遠くでスマホに耳を当てながら大きく手を振るコウくんは、周りの背の高い大人達に埋もれながらもどうにか私の視界に入ってくれた。
今日のような暖かな日にはよく目立つ金糸のような髪があるから成せる事なのかもしれない。
スマホの先の声と唇の動きの一致におかしな笑いがこみ上げた。

「おはよ。おせーじゃん」

メンズライクなサコッシュにスマホを滑り込ませたコウくんは責めるような口調でそういうものの、声の端々から出る色や表情はひどく穏やかで、暖かな陽気に誘われているようだ。

「ごめんってば。今日はどこ行く?私洋服見たいんだけど、良いかな」

ボーッと学生生活を過ごしていたら案外私服を着る機会は逃しがちだ。休日も塾に行ったり、周りの子はカレシを作って色々と忙しかったりするみたいだから。
だから今日、久しぶりにコウくんと会って、春服のレパートリーに愕然としたのだった。
今年のトレンドカラーのリビングコーラルを取り入れてみようと思ったのは今年の初め頃だったろうか。
きっとコウくんは今年のトレンドカラーなんて知ったことじゃ無いんだろうけど、思いの外身なりはしっかりと整えているし顔も整っているのだから1着くらい私が選んでプレゼントしてもバチは当たらないかな、とか。

「ん?うん、良いけど俺はあんまりファッションとかわかんねーし、適切?なアドバイスとか出来ないよ」
「いいよ、コウくんにそんなの求めてませーん」
「お前ねえ……」

コウくんとの付き合いは割と長い。彼の妹と同じ学年の私が彼と初めて会ったのは、小学生の頃だったろうか。
妹の忘れ物を届けに来たコウくんが教室で妹ちゃんの目線まで屈んで「気を付けろよ」と言っていたのがとても昔の記憶のように感じる。
あの時、彼は兄かと妹に向かって聞いた私によろしくと握手を求めてきたコウくんは、思えば凄くフランクで、今のコウくんしか知らない人にとってはそんな過去など想像も付かないだろう。
それになんだか優越感を感じていると、彼には悟られないようにしなければならない。

「コウくんは」
コウくんは、大人になったら
コウくんは、将来の夢とか
コウくんは、これから先……
「お昼何食べたい?」


夢を見た。
暖かで冷たく、のどかで荒廃した、酷くて優しい夢を見た。


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