「せ、先輩」
もうこのレストランに勤めて何年になるだろうか。高校二年生くらいの頃からだから、そろそろ5年くらいだろうか。
駅前に店を構えていて、時給がいいことから入ったレストランだったが、夕方のほどよい忙しさとバイトの仲間たちのおかげでこれだけ続いているんだろうな。
「先輩ってば!」
「あ、ごめん。なんだった?」
ちょうど一年前くらいに入ってきた三枝くん。普通にお仕事をしていても動きがちゃきちゃきしているし声も大きくハキハキしているので彼のことは好きだ。
お客様とのトラブルもうまく処理するあたり、彼の人当たりの良さや世渡りのうまさが光る。
「教えてほしいことがあって、コーヒーサーバーの…」
メモを片手にお客様の様子を伺いながらコーヒーサーバーの前に移動する三枝くん。こうやって近くにいると見上げるくらいには背が高いのに、なんだかつむじが見えるような気がしてしまう。
「ああ、これは上の蓋を開けて豆のカスを掃除しないと……三枝くん?」
メモをとる時間を与えないと…と三枝くんの様子を伺い見ると、手に持つメモ帳は白紙のままだ。
ペンを見るとノックしてすらいない。何か気になることでもあったのだろうか。
「三枝くん、どうしたの」
「ぁ、いや……いや!すみません……少しぼーっとしてました」
「体調悪い?今日はもうお客さん少ないし、早上がりしたいんだったら多分大丈夫だよ」
彼のトレードマークのような赤いメッシュも心なしかツヤがないような気もしてきた。
彼は今となってはバイトの中でも必要な人材だし、彼が体調を崩しているのであれば大事にして欲しい。
彼が辛そうな顔はあまり見たことがないが、見たいとも思わないし、健康であって欲しいと願うくらいには私は彼に好意を抱いている。いや、断じて付き合いとかではなく、親のような心で。
「ゃ……、や!そんな、もったいな……あ、というか……すみません!もう一度お願いします!』
「ほんと?体調悪かったら遠慮せずに言ってね、煩わしいとか思わないから」
「はいっ」
「で、えーと……このエラーが出た時はまず上の蓋を開けて、中のカスを捨てないといけないから」
今度はよどみない仕草でメモを取っている姿を見て胸をなでおろす。
心なしか顔もほんのり赤くて、大丈夫そうだと見て取れる。
「あの、先輩、もう一個いいですか」
「分かりにくかった?ごめん、何?」
「いや、その……そんな顔で見られたら、俺……」
「え、あの」
私、どんな顔をしていたんだろう。
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