フランスが故郷だから、とポルナレフは言った。
旅の間中、私たちは友人以上の関係であったが、やはり一度は自分の帰るところに帰るべきだという話になった。
私は彼の故郷を知らない。国さえ知らないのだ。きっとこれは別れの挨拶なのだろうと思った。
後悔や悲しみが無い訳が無い。だが、彼とは良好な今の関係を保っていたかった。
彼が私の事を今どう思っているのかは分からない。しかし、これも彼の優しさなのだろう。
共に自分の人生を歩んで行くべきだという彼の優しさ。
バッグを担いでいくその後ろ姿は、最初に会った時よりも一回りも二回りも大きく見えた。
「名前はどうするんじゃ。」
ポルナレフを見ていた私の背中に、ジョースターさんが声をかける。
私も身寄りがあるわけではない。DIOに一度とは言え屈した身、身寄りがあってもきっと帰る事は無かっただろう。
しかし、ここでジョースターさん達に付いて日本に行くのは私の生きる方式に反する。
これ以上彼らに迷惑をかけるわけにはいかない。
ただでさえ、私は一度彼らに刃を向けている上、旅にまで同伴させてもらった。
彼らもこれから日常に戻るべきなのだ。
「…そうですね。もう少しこのあたりを散策してみます。観光して、それからフランスに帰ります。」
「フランス?」
急に承太郎が少し怪訝そうに声があげた。
それがなんだか珍しくて、びくりと肩が揺らぐ。承太郎はそれに感付いたのか、帽子の鍔を少し下げた。
「…?ええ、フランスです。ヨーロッパの。」
もしかしたらどこかに齟齬でもあったのかと大まかな地名と共に言うと、ジョースターさんと承太郎は顔を少し見合わせた。
「ポルナレフと同じじゃあないか。」
ジョースターさんが驚いたような声で言う。
私は一瞬その言葉を理解出来なくて間が空いてしまう。
「えっ…」
やっと出た言葉もそんな間抜けな吐息の延長だった。
「追いかけてこいよ。」
承太郎のその言葉にやっと足が動き出す。
段々とその足が交互する間隔が短くなる。
人ごみをぶつかりながらもかき分け、あの特徴的な髪型を探す。
何度ぶつかった人間に謝っただろうか。あのしっかりとスタイリングされた髪型を視界に捉える。
「ポル!ナ、レフ!!」
手を伸ばすと、丁度ショルダーに手がかかる。
ビン、と伸びたショルダーに涙が溢れそうになる。
ああ、ポルナレフは私の手の届くところにいる!いつもそうだ。彼はいつも隣を歩いていてくれる。その安心感はこの旅でかけがえのないものとなって、私の支えだった。
「名前?」
こちらを振り向いたポルナレフはとても驚いた顔をしている。
なじみ深いその顔に私は涙と一緒に笑みもこみ上げてくる。
「ねえ、ポルナレフ。私もね、身寄りがなくて、フランスに住んでて…だから…っ!」
嬉しさで顔が熱い。上がった口角は時たまひくついて、きっとポルナレフから見たらすごい顔をしているのだろうなと思った。
「家族に…なりませんか…っ!」
途端にポルナレフは苦い顔をして、私は地雷を踏んでしまったのかと今度は悲しい涙がこみあげてくる。
「お前なあ…何の為に『一旦』離れようって言ったと思ったんだよ…。俺、指輪も何も用意出来なかったじゃねえかよチクショー!」
一旦、指輪、と断片的に理解出来る言葉から頭に入る。
段々とポルナレフの言った言葉が分かってくる。…あの時の言葉は別れの言葉は別れの言葉でも、短期的なものだったらしい。
「え、じゃあ…ポルナレフ…。」
「あ〜!クソ!しかも先を越されるだとォ〜〜〜!?こういうのは普通!男からって相場が決まってんだよ!……ハア…。いいか、名前。一度しか言わねえから耳かっぽじって聞けよ?」
そう言うとポルナレフは地面に片膝をつく。
気がつくとすぐ近くに人はおらず、少しの空間をあけて、円になって私たちに注目している。
一世一代のイベント沢山の人に見届けてもらえる、そう思うと一気に気分が高揚する。
「金を貯める余裕も無かった。しかも傷だってまだまだ治ってねえ。こんな状態でする予定じゃあ無かった…だが!いいか、言うぞ…。
名前!俺と結婚してくれ!」
しん、と静まる空間。観衆も空気を読んで何も喋らないで見守っていてくれた。
「…ッ!はい!」
そう言って、ポルナレフが私に抱きついた途端にわっと場が賑やかになる。
見ていた人が駆け寄って来て、祝福の言葉を述べ、頬にキスを落としてにこやかに去って行く。至福の時間だった。
きっとこれからもポルナレフと二人で至福の時間を過ごしていくのだろう。





「どうやら成功したみてえだな。」
「全く、心配させるわい。…帰って手紙でも書いてやるか。」
「ああ。」


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