やかましい求愛行為が教室に響き渡る。
夏特有のその声…否、音は私たちの体感温度をぐんぐん上昇させることにおあつらえ向きだ。
まるで呪文のような先生の授業を右から左へ聞き流しつつ、ノートにぐちゃぐちゃと眠たそうな字を這わせる。
何を隠そう私は優等生。どんな能力を持っていて、どう使おうが私は自分の評価が上がるならそれでいい。
滑らせた炭の痕跡はぐにぐにと形を変え、きっちりと四角い文字に変化する。
この能力は一体なんなのか、私には分からないけれど、とにかくうまれた時から使えたのだ。愛着もあるし、使い方も粗方分かっている。
はあ、と漏れた溜息と一緒に教室をぐるりと見渡すと、私の方をちらりと見る人の双眼がきらりと光る。
はっとしてそちらへ視線をよこすと、彼は既に元の姿勢に戻っていた。

「ねえ、何で授業中こっち見てたのさ。」
サンドイッチを頬張ろうとその大きい口を目一杯明けた彼、花京院典明に話しかける。
彼はこちらとサンドイッチを一瞥して、にこりと口角を上げる。
「君がスタンドを使っていたから、気になって。」
「スタンド…?」
彼とよく話し、付き合うようになってからしばらく、スタンドという単語を初めて聞いた。
スタンド、スタンド…。ブックエンドや携帯のスタンド、電気スタンドにガソリンスタンド。
思い当たるスタンドが頭から浮かんでは消える。
「stund by me。いつも自分のそばに居る存在。例えば僕の法皇の緑のような、ね。」
ふわり、と典明の背後に見た事の無い半透明な像が浮かび上がる。
まるで私の能力を使う時に浮かぶ彼女のような存在に思わず生唾を飲み込む。
「まさか…典明にも憑いているなんて思わなかった。」
唖然として言うと、彼は私の反応が面白かったのか、クスクスと上品に笑う。
サンドイッチは綺麗に包まれ膝の上に鎮座している。
「うん、僕も今日見るまで君がスタンド使いなんて思いもしなかったよ。」
「さも前から知っています、なんて言い方したくせに。」
すかさずつっこむと、時にはハッタリは人を安心させるんだよと知ったような口を聞かれた。
それから私はお弁当を頬張り、典明はサンドイッチを頬張った。
さくさくと弁当からはなかなか聞けない新鮮な野菜の音を聞き、自らの弁当箱をちらりと見る。
「美味しい?そのサンドイッチ。」
たまらず口を開くと、典明はまた軽く笑って私にサンドイッチを差し出す。
「一口どうぞ。」
きらきらときらめくレタスを私の瞳に写して、さっきよりも過剰に分泌される唾液を口内に感じる。
「じゃあ遠慮なく!」
さっと典明の手からサンドイッチを受け取って口に含む。
ざくざくと感じる食感をしっかり体に刻み込んで典明にサンドイッチを返すと、彼は平然と私のかじったところから食べ進める。
少し絶句したが、段々恥ずかしくなって典明をべちんと叩いておく。にやにやした彼の顔が憎らしい。
「いいもの、私はもうこの食感を覚えたからね!」
そう言ってスタンドを出現させ、空間に絵を描いていく。
典明は何事かとサンドイッチを食べながらこちらをまじまじと観察している。
段々と着色されていく絵は今典明が手にしているサンドイッチそっくりだった。
やがて実体化したソレを手ににやりと口角をあげると典明もにやりと笑う。
「なかなかすごいスタンドじゃあないか。見直したよ。」
典明と息を合わせて手をぶつけ合う。最初これをされた時は少し戸惑ったが、ちゃんと出来ると気分がいい。
「見直したって…何?私のスタンドを軽視してたの?」
「いいや、そうでもないさ。」
途端にサンドイッチを食べ終わった典明が私を腕に閉じ込める。
何で急に、そう口を動かす前に典明が口を開く。
「惚れ直した、ってとこかな」
耳元でそうささやかれ、スタンドも、スタンドで作ったサンドイッチも煙のように消えていく。
「…馬鹿。」


成長性はAのようだ


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