妙だ、とは思った。
俺の隣の席に腰を下ろして楽しそうに会話をするコイツ、名字名前。
俺にまるで動じやしねえ。
それだけで言ったら、俺の周りをうろつくやかましいアマとさほど変わりねえだろうが、コイツはどうも妙だ。
必要以上にやかましくなく、適度にポツポツと会話をする。
かといって寝暗という訳ではない。例えるなら…そう、花京院と同じようなタイプだ。
まるで壁を感じない、異性という事も忘れてしまいそうな…気の置けない友人である。
「でね、空条くん。」
楽しげにこちらを見る名前。その顔は夕焼けで照らされ、ほんのり橙色に染まっている。俺は適当に相づちをうちながら、校庭で部活に励む学生をちらりと見やった。
瞬間、甲高い音と共にきらきらと橙にきらめく板と共に野球のボールが 名前の こめかみに
「スター・プラチナ・ザ・ワールドッ!!」
空気の振動も、物の動きも、人間の鼓動も、全て消え去った世界で俺は咄嗟にスター・プラチナの手でボールとガラスを撥ね除けていく。
ちくちくと手は傷を作っていくが、それにかまけている暇は無い。
DIOの能力を次いだ訳ではない。時を止められるのはせいぜい1秒程だ。
急に動き始めた世界に、冷や汗を流す。
だが幸いガラスもボールも、大抵のものは撥ね除けられたようだ。名前にも大きな被害は無い。
「っ……?あ、あれ…?」
強く目をつむり、腕を顔の前で交差していた名前も、破片が飛んでこなかったのに驚いたようだ。
ちらりと外の気配を伺っている。
「大丈夫か。」
ちくちくと手が痛むのか、スター・プラチナは自身の手をまじまじと眺めている。
名前はどこを見ているのか、焦点の合わない目でこちらに顔を向けている。
「おい。」
「はっ!だ、大丈夫。えっと…ありがとう?」
ちらり、ちらりと泳いだ目で俺に礼を言うのは、なるほど勘の良いヤツだ。
「その…私の見間違いだったら忘れてほしいんだけど…後ろのって…。」
後ろ。彼女の口からスタンドの話は一度も出た事が無い。
急な事に顔には出ないものの驚くくらい背中に冷や汗が伝う。
「…見えるのか。俺のスター・プラチナ…、『スタンド』が…。」
名前は俺の口の動きに注視しているようだった。
真っ黒の瞳には俺と、スター・プラチナがちらちらと揺らめく。
「ええ…見える…視えるけど…。そっか、空条くんも『スタンド』の持ち主だったんだ。」
そう言うと名前はすり抜けるように俺の脇をすりぬけ、スター・プラチナの手を取る。
「スター・プラチナさん…。かっこいいね。あ、手。けがしてる。」
手に触れられる感触がスタンド越しに伝わり、鳥肌が立つ。
普通に触られるよりもリアルなその感覚、旅から帰ってからまるで感じなかった感触だ。
「これ、私をかばって?」
少し目を潤ませた名前はポケットから真新しいハンカチを取り出し、それをスター・プラチナに巻き付ける。
おい、普通それは俺にするんじゃないか、と口にしようと思ったがやめた。
スター・プラチナを視る名前の目がまるで、どこぞの漫画のような…羨望や劣情などでは無い。
青臭い言葉を使うならば、恋をしている奴の目そのものだったからだ。
「やれやれだぜ」
布が巻かれる感触が伝わる手で帽子の鍔を少し下げた。
今後、どうするかを少し頭に思い浮かべながら。
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