ぞわりと背中が泡立つ感覚。
囚人収容所、州立グリーン・ドルフィン・ストリート重警備刑務所…別名『水族館』。
ここでは殺気を感じる事なんて日常茶飯事だ。
しかし、こいつが発するのだけはなんだか違う。なんというか…粘着質だ。
ねっとりと背中に絡み付くペンキのような殺気、視線。
「ねえアナスイ?私の後ろ姿を見ていて楽しい?」
振り返らずに声だけ出すと、案の定背後からガタガタと音がする。
「流石名前だな。気配を完全に消したと思っていたのだが。」
何でバリケードしていたのか、自らの身長程もある板を数枚傍に抱えて出てきたアナスイはとても飄々としていた。
自分が私の後をつけていたという事に自覚が無いのだろうか。全く、困ったものである。
「そもそも何で気配を消してつけ回さないといけないのよ。意味が分からないわ。用があるならちゃんと言いに来なさいよ。」
そう言うと、アナスイはにわかに喜んだように頬を染め、いや…そんな…などと呟く。
考え込む姿はさしずめ銅像のようにサマになっているのに、性格がこんなにも面倒だったら意味がない。
「その…なんだ、名前…。お、俺と結婚…」
「よ〜名前!今日も見とくかァ?あのハンサムな看守をよォ〜…。ひとりエッチのネタにすんだろォ、ブハハッ」
何かもごもごといおうとしていたアナスイの言葉を遮った元はエルメェス。
いつもの快活な笑顔で私に挨拶をする。…挨拶の口上としては、いささか下品だが。
「エルメェスッ!さっさとその事実は忘れなさいよ!いつの話をしてるの?アンタは…。フフ…よく聞きなさいよ、私の今のズリネタは例の新人なのよッ馬鹿ね。ま、アンタもそうなんでしょうけどォ」
ご名答ォ〜と返したエルメェスとハイタッチをしてゲラゲラ笑い合う。下品なやりとりだが、ささくれだってる今の生活にはピッタリというところだろうか。
「ってアレ、何で男が居るんだ?ここ、女子寮だろ?金掛かったろ」
エルメェスがアナスイと私を交互に見て聞く。
そう言えば彼は日常的に女子寮と男子寮を行き来しているように思うのだが、一体幾ら係員に払っているのだろうか。
もしかしたら入寮の段階で金を積んで、女子寮で生活しているのかもしれない。
「あっそうだアナスイ、なんだっけ?何か言いかけてたわよね。」
振り向くと彼は何とも言い難い顔をして、なんでもない…と呟いて、廊下の奥へと消えていった。
なんとなくあの顔が忘れられなくてオカズにしたのは別の話。
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