「はあ。」
私の話を聞いていたミドラーが呆れたという顔でため息をつく。
なんだ、私はそんなに変な事を言っていたのだろうかと内心焦るが、ミドラーの隣で足を組んで座るマライヤが煙草の煙を吐き出した事で話は進む。
「告白でもなんでもしちゃえばいいじゃないのよ。」
その煙は私のまわりをぐるりと覆い尽くす。喉にまで到達したその煙に思わず咽せ込んだ。
「ゲホッ!ちょっとお!そんな事出来る訳ないじゃないですかッ!」
「めんどくさいわねえ〜貴方達。」
ミドラーが零したその言葉が何故か耳に残った。
☆
「ハア〜?」
ホルホースの呆れたような声が小さな部屋に響く。
手に持った杖からはホルホースもダニエルも呆れたような顔をしているのが手に取るように分かる。
「なんだ、その顔は。」
灰皿に刺さった煙草は数しれず。いつの間にか長く話し込んでいたんだなと思う。
「めんどくさいんだよ、お前達。さっさと告白なりなんなりしろと言っているんだ。」
ダニエルが吸う煙草はいつもより甘く思えた。いつものようにゲームで勝った相手からくすねたのかもしれない。
煙の流れが杖に反響して頭がくらりとする。いつもいつも私の近くでは煙草なんて吸うなと言っているのに分からない奴らだ。
☆
「あ、ンドゥールさん。こんにちは。」
「ああ、名前。今日も暑いな。」
それから日は変わり今は昼。DIO様は御就寝なさっていて、私たちは情報の収拾や奇襲に出かけている。
まだ九栄神と括られた私たちの出番は無いらしく、各々のんびりと日々を過ごしていることだろう。
なのに私たちはばったりと館の廊下で出会った。
珍しい事もあるものだな、と思うと同時にこんな事は滅多に無いのだ。神の思し召しだと喜んだ。
彼は目が見えない。だからこそ、と言うのか、音にとても敏感で下手に動こうものなら何をしているのかすぐに分かるという。
他愛も無い話をしていた筈なのに脳裏にちらつくのは昨日のマライアの言葉。
告白でもなんでもしちゃえばいいじゃない。出来たらこんなに苦労をしていないというのに。
ああ、この大きく鳴る心臓の音がどうか彼に聞こえていませんように。
「なあ、名前。」
「はい?」
どきりとした。本当に彼に心臓の鼓動が聞こえていたのだろうかとか、どこかで私は粗相をしたのだろうかとか、沢山の可能性が一瞬にして脳裏を過って行く。
彼に嫌われないように今まで過ごしていたのに、それが決壊してしまうのだろうか。
「…なんだ、その。もし私が君を好いていると言ったとしたなら君はどうする?」
えっ
☆
我ながら小狡い質問の仕方をしてしまったな、と言った後に後悔した。
これじゃあ自分が引け腰なのが丸わかりじゃあないか。
「はは、なんて」
しかも逃げ道を沢山作って、こんな事でいいのだろうかと思いさえする。
「私も好きですと返すと思いますよ。きっと。」
……え?
握りしめた杖がとうとう手からこぼれ落ちる。
大きな音を立てて転がる杖は静寂をより際立たせて、緊張した空気を更に張りつめさせる。
「…すまない、私の聞き方が狡かった。こんな後に言うのも卑怯だとは思うが…好きだ。愛している、名前。」
隣に居る名前の手を取って、恭しく頭を下げながら今度は正々堂々きちんと告白をする。
ああ、こんな甘酸っぱい事をしたのはいつ振りだろうか。
小さく鼻をすする音が聞こえるのは、きっと名前が涙を流しているからだろう。
「ええ、こちらこそ。お慕い申しております。」
えへへ、と可愛らしく笑った名前は取った手を包み込むようにして握ってくれて、もしかしたらこれから杖なんてものは必要無いのかもしれないと思ったくらいだった。
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