ランサーは色々なところでバイトをしている。
嫌にならないのかと聞いたがそれしかやる事がないのだからいいのだと言っていた。
私はアルバイトは三ヶ月以上続いた事がないものだから、素直にランサーはすごいと思ってしまう。
「今日の夜遊びに出ねえか」
「夜?」
「昼はバイトがあっからな」
そういえば最近ランサーと遊びに出る事が無かったなと思い返す。
デート、と言えば聞こえは良いがただ単に遊びに出てるだけなのだ。本当に。
「分かった。今日のバイトどこだっけ?」
「…アーネンエルベ」
「ああ、千鍵ちゃん達の所か。じゃあランサーが上がるまでそこで暇つぶししよお〜」
「好きにしな」
そうと決まるとぱぱっと着替えて、バイトに出向くランサーと一緒に店に足を運ぶ。
冬にさしかかった最近は空気が澄んでいるように感じた。
着ている白いダッフルコートはランサーが可愛いと言ってくれてからお気に入りになっているものだ。
「じゃあお仕事頑張って」
「おうよ」
さて、ランサーが上がるのは夜の九時。今はまだ朝の十時を回ったところだ。
暇つぶしになるような本もいくつか持って来た。あまり人が好まないであろう店の中央にある席に腰掛けてバッグから厚めの本を取り出し、開く。
「名前さん」
「千鍵ちゃんだ。どもども〜!」
「どうも。ご注文お決まりでしょうか?」
「うん。モーニングセットひとつ。今日は長居させてもらうと思うけど大丈夫かな?」
「かしこまりました。ここいつもそんなに人が入る訳じゃないから大丈夫。」
「そっか、ありがとね」
取り出した本はテーブルの片隅に置いて、千鍵ちゃんの注文を聞くひびきちゃんに目を向ける。
二人が少し話した後、ひびきちゃんはこちらに気がついて満面の笑顔でこっちに手を振ってくれた。
二人は仲が良いなあと思いながらキッチンに消えるひびきちゃんを見送ると、それと入れ替わるようにランサーが制服姿で奥から姿を表した。
ランサーは目鼻立ちが良いからギャルソン姿はよく似合う。足もすらりと長くて、ナンパさえしなければとてつもなくモテた事だろうと思う。
…惚れた贔屓があるのは否定出来ないけれど。
開いた本は数行だけしか読んでいない。
というのも、すぐ後に士郎達が来店してからずっと喋りっぱなしだったからだ。
とは言うものの六時を過ぎれば皆解散のようで、また店内には閑散とした雰囲気が漂っている。
アルバイトの三人も暇なようで、好きずきに自分の飲み物を用意して席で喋る。それでいいものかと思うが、如何せん客が居ないのだから仕方が無い。
私が飲んだコーヒーや紅茶の数も多くなって来た頃、ランサーがカウンターよりも奥に引っ込んだ。
腕時計をちらりと見ると、もう上がりの時間が近付いているようだった。
そういえばランサーは急に誘って来たけれど、何か見たいものがあったのだろうか。
「待たせたな」
「ん?ああ、楽しかったから全然大丈夫だよ。」
「そっか」
そう言って私は私の会計を済ませてから(と言っても半分はランサーが払ってくれた)アーネンエルベから出る。
どこへ行くのかとランサーへ問うと、まあくれば分かると私の手を強く引いてずんずんと歩いて行ってしまった。
その道は私もあまり歩いた事が無い様な細い道や、逆に人通りが多い広い道をうまく選んで最短らしいルートを辿っているように思えた。時折見覚えのある金髪赤目なんかともすれ違ったような気がする。
さて、着いたのは一面青色に包まれた世界だった。
普段こんな時間まで営業しているものなのだろうかとランサーに問うと、今日は特別に夜まで営業している日らしい。確かに周りを見渡すと、今日を狙ってきたのだろうカップルが散見された。
光を反射して煌めくそこは、とてつもなく幻想的に見えた。
水を泳ぐ魚の鱗もつやつやとしていて、それを眺めるランサーの真っ赤な瞳もそれを反射して美しく輝いている。
つまるところここは所謂水族館というものであった。
「うわっでかい鯨だ!やばいよ怖い怖い怖い!」
「ん?こりゃ鯨じゃねえよ、サメだサメ。えーと…そうだ、確かジンベエザメ」
「へえ…でも怖いものは怖いよ。口とか、ブラックホールみたい」
「主食はプランクトンらしーが」
「そういう問題じゃない!」
にまにまと笑って私の震える手を握るランサーにむっともするがすぐにそこを離れて事無きを得る。
そうやって、色んなところに連れて行ってもらえるのはやっぱり面白いし、結構博識なランサーは一緒に居て楽しい。
カフェで待っててよかったな、とにやけたらランサーに不思議な顔をされた。
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